『英国一家、日本を食べる』 マイケル・ブース著、寺西のぶ子訳


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子連れの味めぐり珍道中
 イギリスの食通ジャーナリストが一家4人で日本全国を食べ歩いた。北海道から沖縄まで3カ月の珍道中。これが面白い。なぜ面白いのかを考えた。

 一つ、優れたグルメルポになっている。北海道のラーメン横丁、新宿の思い出横丁、京都の高級懐石料亭、博多の屋台。ゴチックで店名も明記して「ここ知ってる」「ああ、食べたい」「今度行ってみよう」と読み手の情動と胃袋を揺さぶる。
 一つ、著者の好奇心と食いしん坊ぶりがすごい。デパ地下でトランス状態に入り、酒の試飲会で酔っ払い、大阪で食い倒れる。取材先は味噌蔵、調理師学校、相撲部屋、「ビストロSMAP」収録現場など縦横無尽。満腹でも食べる、食べる。厨房にも入る、入る。
 一つ、家族の存在が生活感とリアリティーを与えている。6歳と4歳の坊やは著者以上に正直な食の批評家だ。それが見事に天ぷらや鶏の軟骨にはまる(それ以上に、ポケモン、ドッグカフェ、最新式水洗トイレに夢中になるのだが)。
 一つ、日本の食を再発見できる。著者は感嘆する。焼き鳥は食材を一口サイズにして、焦げ過ぎと生焼けを回避した画期的バーベキューだ!と。お好み焼きと串カツは世界を席巻してしかるべき食だ!と。そして究極の日本料理店で出された、だし汁の味わいに身を震わせるのである。
 日本の食がすごいとは常々思っていたが、外国人に言われて初めて署名捺印された気になるのが私たち日本人だ。少々こそばゆいけれど、分かってくれたかマイケル!
 (亜紀書房 1900円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
(共同通信)

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片岡 義博