情感豊かなバリトン 翁長剛さん公演


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歌劇「トロヴァトーレ」の二重唱で安座間和美(左)と圧倒的な声の調和を聞かせ、来場者を引きつける翁長剛=1日、浦添市てだこ大ホール

 声楽家(バリトン)の翁長剛の公演「ドラマティックリサイタル~ヴェルディの夕べ~」(混声合唱団アミーチ、ソーニョ主催)が1日、浦添市てだこ大ホールであった。

これまでに翁長が経験してきたヴェルディの名作の数々を、情感豊かなバリトンの歌声で劇的に彩り、来場者を魅了した。安座間和美(ソプラノ)、桑江律子(同)とも華やかに共演した。演奏は管弦楽団アイランドオーケストラ(コンサートマスター・岡田光樹)。指揮は樋本英一が務めた。
 司会の馬場紀雄(演出家)が「バリトンの声の魅力を最も引き出した作曲家がヴェルディ」と語り、歌劇「ドン・カルロ」の「ロドリーゴの死」を紹介。翁長は理想に燃え、命を懸けて闘う男性像を力強い声で描いた。「マクベス」から「年老いし時」は、悪役の皮肉を交えた心の叫びを陰影深く歌声に乗せる。
 一転して「椿姫」の「プロヴァンスの陸と海」は、わが子への愛に満ちた温かみのある歌唱で来場者を引きつけた。「リゴレット」の「娘よ泣いて~復讐(ふくしゅう)だ」は桑江との二重唱。娘を傷つけられた父の悲しみが怒り、憎しみへと変わっていくさまを迫力たっぷりに歌う。桑江との声の調和で、高揚する物語の世界に聴衆を招き入れた。
 12月に沖縄オペラ協会で公演を予定する歌劇「仮面舞踏会」からは「お前か、清らかな心を汚したのは」を披露。悲しみをたたえた歌声を重厚なオーケストラの演奏と響き合わせた。安座間とは昨年の「トロヴァトーレ」公演でも喝采を浴びた二重唱「私の願いを聞いてください」を歌う。交錯する互いの思いを二人の声が重層的に映し出し、歌い終わると来場者から拍手と歓声が湧き起こる。
 歌劇「アンドレア・シェニエ」から、ヴェルディの後継者の一人とされるジヨルダーノ作曲「祖国の敵か」も歌う。苦悩を抱える心境を劇的な旋律に乗せ、35年余をかけて翁長が追求してきた声楽の道の集大成を示す公演を締めくくった。(宮城隆尋)