「伏山敵討」感情豊かに 国立で本部・瀬底の組踊


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(左から)天願の按司、富盛大主、若按司が斬り合う場面=5月26日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの第10回研究公演「村々に伝わる組踊~本部町字瀬底~」が5月26日、浦添市の同劇場で行われた。

瀬底区の有志が豊年祭で上演する組踊「伏山敵討」を披露。地方ならではの感情豊かな演技で客席を沸かせた。瀬底に伝わる舞踊も披露され、独特の振り付けが異彩を放った。シンポジウム「村々に伝播(でんぱ)した組踊」も開かれ、同劇場の宜保榮治郎常務理事、大城學琉球大教授、地元の歴史に詳しい元教員の仲田善明氏が登壇した。
 瀬底の豊年祭は旧暦8月10日ごろに行われる。26日の公演は、豊年祭で必ず踊られる「恩納節・金武節」「四つ竹」「瓦屋・述懐」の舞踊3題と「獅子舞」を披露した。
 「四つ竹」の音曲は、本花風節や花風節に似ているが、曲も歌詞も異なる独自の「瀬底花風」を用いる。「瓦屋・述懐」は、入羽の音曲「述懐節」で「形見である小袖は互いに抜き替えて 面影が立ったら慰めにしてください」の歌意通り、踊る二人が紅型の小袖を脱いで交換する。小袖の下の赤い衣装が現れ、鮮烈な印象を与えた。
 組踊「伏山敵討」は、棚原の按司が天願の按司(内間優)に滅ぼされ、棚原の若按司(知念辰也)が家臣の富盛大主(大城拓也)と協力して敵を討つ筋立て。まず、通常の組踊で使われる紅型幕ではなく、洋画のような瀬底独自の幕が目を引いた。
 天願の按司が富盛大主の家に押し掛ける場面で、家中で待ち伏せている設定の富盛大主が幕の上から顔を出す。舞台空間を大きく使った演出は興味深かった。天願の按司と富盛大主が斬り合う場面は、唱えを速くして緊迫感を高める。動作も速く写実的だ。豊年祭で集落の人々を楽しませながら継承されてきた歴史を感じさせた。
 地謡は、国指定重要無形文化財「組踊」保持者の大城米雄が指導し、伝承者の上間克美らが歌三線を務めた。若按司が母親(大城元治)に別れを告げる場面の「東江節」など、聞き応えがあった。欲を言えば、立方の唱えや立ち居振る舞いが、実演家に比べて見劣りするのは否めなかった。各地域に残された独自の芸能は沖縄全体の宝でもある。魅力あふれる瀬底の芸に一層磨きを掛け、守り続けてほしい。(伊佐尚記)