日台漁業協定発効1カ月、台湾船拿捕相次ぐ 進まぬルール策定


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台湾漁船がだ捕された水域

 尖閣諸島周辺海域の日本と台湾の漁業権を取り決めた日台漁業協定の発効から、10日で1カ月になる。台湾漁船は合意水域外での違法操業により既に4隻が拿捕(だほ)され、県内漁業者らからは周知徹底を求める声が上がる。一方の台湾側は「周知を強化したい」とするが、さらなる操業可能水域の拡大を求める声も根強い。

縄の張り方など操業ルールの策定は遅々として進まず、盗難や縄の切断といった県側の漁具被害が続く。県内漁業者間では、協定の見直しなどを求める漁民大会開催への機運も高まっている。
 発効からわずか4日後の5月14日午前1時ごろ。八重山漁協から通報を受けた水産庁の漁業取締船が、協定の合意水域外で違法操業する台湾漁船を拿捕した。合意水域から南に150キロも離れた八重山南方の水域だった。
 「認識の低さを嘆くしかない」(国吉真孝県漁業協同組合連合会長)
 「沖縄漁民の生活の場、誠に遺憾」(高良倉吉副知事)
 県内関係者らは強く批判。その後、同月29日までの約2週間という短期間に、さらに3件の拿捕が発生した。国吉会長は台湾側に「周知を徹底すべきだ」と強く要望。日本政府に対しても「このまま拿捕が続くようなら、罰金を拡大することも必要」と取り締まり体制のさらなる強化を求めた。
 台湾で日本の水産庁に当たる漁業署遠洋漁業規劃(きかく)科は、合意水域を描いた下敷きを配布するなど周知強化を進めている。
 担当者は「台湾漁民が新海域に適応するにはまだ時間がかかる」としながらも、「日本国民にマイナスイメージを与えないようにしたい」と周知を急ぎたい考えだ。
 一方で、拿捕された4件中2件が八重山南方水域で発生したことに対し「この海域の合法操業については今後も日本政府と協議したい」と、操業可能水域の拡大や合意水域外で取り締まりを譲歩するバッファーゾーン(緩衝水域)の設定にも依然意欲的な姿勢を示す。
 「拿捕されたのは4件だけど、違法操業はその倍以上はいる」
 そう指摘するのは、発効前に協定の白紙撤回を求める約1500人分の署名を水産庁に手渡した那覇地区漁協の山内得仁組合員。
 5月下旬、山内氏の知人の漁師が合意水域外で台湾漁船の違法操業を確認。水産庁に通報したが、漁業取締船が約2時間後に現場に到着した時には上げ縄は既に終わっており、拿捕に至らなかった。
 現在、違法操業を発見した時の通報先は沖縄総合事務局や所属する漁協などだが、山内氏は「それでは間に合わない。一番近い取締船に直接連絡を取れる体制をつくるべきだ」と迅速な通報体制の構築を訴える。
 さらに県漁連や各組合の組合長らに対して「(発効以前から)現場の漁師との意見交換や、漁業委員会で話された内容の文書通達も何もない」と指摘。今後、台湾や国と交渉する中で「まずは協議会を開いて現場の声を吸い上げるべきだ。撤回を求める抗議集会も開く必要がある」と県内漁業者の意思統一を図る必要性を強調する。
 山内氏によると、今月初めに宮崎県の漁船のブイが久米島西方の特別協力水域付近でなくなった。5月中旬に開かれた沖縄と台湾の漁業者による意見交換会の次回開催も依然めどが立っておらず、操業ルール策定への糸口すら見えない。日本政府には、一刻も早く台湾との交渉の場を設け、沖縄の漁民が安全に操業できる環境を整備することが求められている。(長嶺真輝、呉俐君)