『南風原町史第9巻 戦世の南風原』 「つなぐ」に込めた思い


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『南風原町史第9巻 戦世の南風原』南風原町史編集委員会編 南風原町

 30年にわたる南風原町の沖縄戦体験記録の集大成として編まれた本書には、膨大な情報が収録されている。それを、どう読み手に届けるか。本書の大きな特徴は、構成にさまざまな工夫がほどこされていることにある。

 例えば、表紙をめくって最初のページ「赤紙ってナニ?」。真っ赤だと思っていた「赤紙」、意外とピンク色に近いんだなぁ…「↓p.86」ってあるからめくってみよう…正式には「臨時召集令状」っていうんだ…戦時中、赤の染料が足りなくなるほど大量の赤紙が発行されたって書いてある…その1枚が長嶺将光さんに届いたのか…「↓p.134」は長嶺さんたち宮古・八重山に配置された将兵の様子…「↓p.379」にもリンクしてる、ここで長嶺さんの証言が読めるんだ…という具合だ。
 市町村史は、内容をすべて読み切ることがなかなか難しい。しかし本書は、「↓」をたどっていくといつのまにか、411ページのあちこちを自分で開き、自然とあらゆる角度から戦争体験に触れられる構成になっている。副題の「つなぐ」に込めた思いの通り、沖縄戦体験者と体験を持たない私たちを、また断片的ないくつもの情報を、過去から現在へ、縦・横・斜めへと自在につないでいる。執筆者に20代、30代を多く起用したことも特徴である。戦争体験に触れ、記録し、伝える側に立って初めて「私が」つなぐために模索しはじめる。
 沖縄戦体験を前にしたとき、体験のない世代はときどき尻込みしてしまう。「暗く、重いので」(琉球新報6月19日りゅうPON!8面)友だちと話す機会も少ない。でも、隣にいる人が壮絶な過去を背負っていたとき「暗くて重いから」と触れないでいられるだろうか。体験者は私たちのすぐそばにいる地域の方たちだ。たった一つの体験を抱えて、今、隣で生きている。
 一人の体験から、一つのモノからでいい、沖縄戦の記憶に触れてほしい。そんな体験者と記録者たちの思いが、ページをめくるたびに伝わってくる。
 (吉川由紀・沖縄国際大学非常勤講師)