若手ら名作に挑む 「泊阿嘉」みずみずしく


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
樽金(左、金城真次)と思鶴(知念亜希)が思いを語り合う唯一の場面=6月29日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの沖縄芝居公演「泊阿嘉(とぅまいあーかー)」(我如古弥栄作、伊良波さゆき演出)が6月29、30の両日、浦添市の同劇場で上演された。

古典的な名作歌劇に若手の役者、地謡、演出が挑戦。みずみずしい演技と現実味を持たせる細やかな演出で、いちずな恋の悲劇を現代によみがえらせた。省略されがちな音楽を最後まで聞かせるなど、安冨祖流教師でもある伊良波らしいこだわりも見せた。
 阿嘉家の樽金(金城真次)は、伊佐家の思鶴(知念亜希)に一目ぼれする。思鶴に会うため、伊佐家に近い泊高橋に99日通い詰める樽金。思鶴の乳母(赤嶺啓子)の気遣いで、ついに2人は再会する。1時間超の舞台で、2人が語り合うのはこの一瞬しかない。すぐ暗転して地謡の「忍び仲風節」だけが響き、恋の甘さと切なさを際立たせた。
 知念は清らかな雰囲気と美声で、思鶴の品格と可憐(かれん)さを表現した。樽金に会えない寂しさから死に至る場面では、消え入りそうな歌声が涙を誘う。娘のように思鶴をいたわる乳母の様子も、観客を感情移入させた。一方、思鶴の父(石川直也)は自制心の強い設定なのか、娘の死に直面しても落ち着きすぎている印象を受けた。
 樽金が思鶴の遺言を読む長い「つらね」は、美しい詞章で物語の格調を高めた。組踊「手水の縁」で、処刑される玉津が山戸への思いを語る場面を思い起こさせる。国立劇場ならではの大掛かりな装置も圧巻。舞台奥から樽金の前に現れる大きな墓は、思鶴の死の重さを象徴するようだ。
 演出の伊良波は、現実離れした物語に説得力を持たせるため、演技の型の意味を一つ一つ考えたという。演技のほかにも、時間の経過に合わせて日の傾きや月の満ち欠けを変えるなど、現実味を持たせる工夫が随所に見られた。乳母のハジチなどは、演技を指導した瀬名波孝子のこだわりだ。
 6月末で退任した同劇場の宜保榮治郎前常務理事は「(場面を省略せずに)百パーセント復元していた。一種のモデルになった」と評価。演技については「思鶴の声が細いが、何度も演じるうちに熟練していくだろう」と期待した。
 昔からの芝居ファンにとっては新鮮な、初めて見る人には親しみやすい舞台に仕上がっていた。伊良波が劇場内カフェの一日店長を務めるなど、ファンサービスも積極的だった。観客の多くは中高年層だったが、若者にも見てほしかった。作り手の若い感性と観客を楽しませる姿勢で、ファンの裾野を広げていくことを期待したい。
(伊佐尚記)