士族女性 気高く表現 組踊「貞孝婦人」


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乙鶴(新垣悟)が夫の墓参りに行く「道行き」の場面=13日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわ企画の組踊公演「貞孝婦人」(作者不明、上地和夫演出)が13日、浦添市の同劇場であった。過去3回の公演は宮城能鳳が主役の乙鶴を演じていたが、今回は宮城の弟子である若手の新垣悟が挑んだ。士族の女性の気高さや芯の強さを、新垣らしい品のある美しい女形で表現した。

終止穏やかな展開のため、地謡と舞踊による心情表現がより際立った。
 統括や立方指導は宮城。地謡指導は城間徳太郎。乙鶴は、結婚からわずか1年ほどで夫に先立たれる。乙鶴の父(嘉手苅林一)は娘を再婚させたいと考えるが、乙鶴は夫の遺言を守り、しゅうとめ(前當正雄)に孝行する道を選ぶ。
 父の臣下に「男生まれてや主人二人持たぬ、女身や二人夫持ちやならぬ」と語る乙鶴は、士族社会の理想の女性像を体現している。一方で、一人でいるときは、あの世の夫につらい気持ちを打ち明ける。時折見せる人間らしい弱さが、乙鶴を現代にも通用する魅力的な人物にしている。
 地謡は島袋功、吉元博昌、仲村渠達也ら。乙鶴が夫の墓参りをする「道行き」の場面で子持節などをじっくり聞かせた。道行きの歌は風景を詠むことが多いが、本作では乙鶴の心を描くのが印象的だ。
 新垣は、わずかに身をのけぞらせるなど抑えた動きでつらい思いを表した。歌三線は3人で交代しながら務めたが、自然につないで観客の感情移入を乱さなかった。
 状況を説明するマルムン(間の者)として登場する村の頭取(平田智之)は、静かな展開にめりはりをつけたが、もっと生き生きと演じてほしかった。墓が登場する組踊は珍しく、どういうセットを使うのかも注目する点の一つだった。前回は木製パネルに大きな亀甲墓の絵を描いたが、今回は小さな堀込墓のセットを作った。「豊かではない家なので大きな亀甲墓は不自然」と判断したという。
 公演後、新垣は「せりふが長く、演じるだけで大変だった。あらためて組踊の怖さを知った。平板になってしまったが、もっと緩急をつけたい」と語った。それでも、新垣は乙鶴役の立方として適任だと思う。試行錯誤を重ねながら今後も演じ続けてほしい。
 組踊の前の第1部では、高江洲清勝、金城求、仲村圭央、碇浩二が女形の雑踊を披露した。最後の「花風」は格調高く、去りゆく愛しい人を思うというテーマは「貞孝婦人」に通じる。自然な流れで組踊につながり、良い選曲だった。
(伊佐尚記)

※注:城間徳太郎の「徳」は「心」の上に「一」