迫力の声量と表現力 キュウ・ウォン・ハン


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照屋江美子(右)とオペラアリアで共演するキュウ・ウォン・ハン。圧倒的な声量と表現力で来場者を魅了した=12日、那覇市のパレット市民劇場

 韓国ソウル出身のバリトン歌手キュウ・ウォン・ハンのリサイタル(カノンの会主催)が12日、那覇市のパレット市民劇場で開かれた。キュウはベルヴェデーレ国際声楽コンクールなど数々の受賞歴があり、日本では「題名のない音楽会」への出演などで知られる。

オペラアリアから日本、韓国の歌曲まで、幅広い曲目をすさまじい声量と豊かな表現で彩り、来場者を圧倒した。共演は関東を中心に活動する県出身の照屋江美子(ソプラノ)。ピアノは山岸茂人が務めた。
 リサイタルはシューベルト「ます」「野ばら」で幕を開く。ヴェルディ「墓に近寄らないで」などを圧倒的な迫力で聞かせたかと思えば、トスティ「セレナータ」は叙情性豊かな旋律をみずみずしく奏でる。
 ヴェルディのオペラ「椿姫」から3曲を披露。「ああ、そは彼の人か~花から花へ」は照屋が、熱情ほとばしるアリアを狂おしく歌う。キュウは「プロヴァンスの陸と海」で、息子を思う父親の心情を、心を震わせる響きに乗せる。「ヴィオレッタとジェルモンの二重唱」は2人の絶妙な掛け合いで来場者をドラマチックな一幕に引き込む。
 岡野貞一「故郷」でも味わい深い響きを醸し出したたほか、カッチーニ「アヴェ・マリア」は単純な歌詞の繰り返しを千変万化させる、キュウの表現の巧みさが際立った。
 金連俊「青嶺に住まう」(榎本潤編曲)は、韓国の山々に息づく自然の雄大さをゆったりとした旋律で描く。韓国民謡「舟歌」(榎本編曲)は漁師たちの威勢のいい「エヤー、テヤー」という掛け声が歌詞に含まれる印象的な曲。力強い旋律に、昔ながらの人々の豊かな暮らしぶりを映し出した。
 退場したキュウは鳴りやまない拍手で再び舞台に登場。アンコールに「見上げてごらん夜の星を」「芭蕉布」などで応え、来場者の喝采を浴びた。(宮城隆尋)