オリバー・ストーン監督本紙インタビュー 非暴力の闘い積極的に


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「県民の声は効果をもたらしている。人口は少ないが、今はみんなが沖縄を知っている」と話し、不条理に声を上げ続けることの大切さを強調するオリバー・ストーン監督=7月19日、米カリフォルニア州サンタモニカ

 琉球新報のインタビューでオリバー・ストーン監督は米国の外交史を振り返り、冷戦終結など軍縮に向かう大きな分岐点は何度も存在したと説明し、同時に変化を実現するには市民が声を上げることが重要だと指摘した。沖縄は基地負担の不条理を県民が訴え続けた結果、「今ではみんなが沖縄を知っている」と話し「県民の抗議は効果を上げている」と強調した。(聞き手・島袋良太)

◆歴史学ぶ重要性 国は歴史にふたをしたがる

 ―核開発競争など米国の安保・外交史を検証したドキュメンタリー「もう一つのアメリカ史」を昨年発表した。国内外の反応は。
 「米国主要メディアの多くは批判的だったか、黙殺した。『映画監督』の私が学校で習った米国の歴史を逆さまの視点で描くのは、受け入れ難いのかもしれない。しかし放映後、(共同で脚本を手掛けた歴史家の)ピーター・カズニックは、歴史家たちから高い評価を受けた。後編に進むに連れ、視聴者が増え、今は週平均で110万の視聴者がいる。ことし10月には大手のワーナー・ブラザースが作品をDVD化する。大きな進歩だ。英国では保守系のメディアを含めて非常に反応が良かった。日本でも有料チャンネルで深夜枠の放送だったが、制限がある中で非常によくやった」
 ―海外の立場や歴史を踏まえると、米国の歴史はどう見えるか。
 「歴史を学び始めると全てが違って見える。例えば日本でもそうだが、国は歴史に“ふた”をしたがる。米国の歴史は、日本への原爆投下は戦争を終結に導いた正しい選択だったと位置付けている。だが徹底的に調べれば、原爆投下は戦略的に必要なかったと分かる。道徳的にも嫌悪されるべきものだ。ソ連の日本侵攻こそが日本降伏の大きな要因だと理解した時、歴史を見る方程式は変わる。冷戦は原爆投下に始まった。ソ連と米国は『ライバル関係』となり、米軍は今も日本に居座り続けている」
 「アイゼンハワー、レーガン、ブッシュ、オバマといった現在にも通じる米国政治を検証した。米国は今や『国家安全保障』ではなく、かつてないほどの帝国主義的な『世界安全保障』を目指す巨大な要塞(ようさい)になった。最近ではエドワード・スノーデン(米国による世界規模の通信傍受を暴露した元CIA職員)について、米国はこの男の活動を止め、亡命を受け入れないよう他国に圧力をかけている。欧州は以前は米国から独立した行動を取っていたが、今は残念ながら米国の言いなりだ」

◆米と沖縄の関係 矛盾の放置、耐え難い

 ―沖縄は20万人余が命を落とした激しい地上戦があり、戦後も米軍基地が集中している。沖縄を初めて訪問するが、印象は。
 「明らかなのは米国と沖縄の関係は一方的だということだ。米国は沖縄に基地を置き続けることに関心を抱いている。海上航路の制御という世界戦略を満たす重要な場所にあると考えているはずだ。現在の目標は中国の制御だ。沖縄をグアムやハワイ真珠湾のように(米本土から離れた軍事拠点として)利用したいのだろう。そして日本は沖縄に米軍基地を押し付けておけばいいと思っている」
 「多くの米国人は沖縄を第2次世界大戦で多くの米軍人が命を落とし、栄光の勝利を得た島だと思っている。沖縄が1879年まで独立国として存在し、日本が沖縄を侵攻した歴史は全く知らないはずだ」
 「私は今回の旅程で韓国済州島も訪れる。皮肉だが済州島は沖縄と似ている。巨大な開発に住民が脅かされている島だ。韓国政府は巨大な海軍基地の建設を進めているが、実際は米軍が使うために建設される。建設でサンゴ礁が破壊されようとしている」
 ―米国は民主主義や平等を、建国や憲法の精神として掲げてきたが、沖縄はその理念と反した状況にある。
 「明確な二重基準だ。この矛盾を指摘することが『もう一つのアメリカ史』を制作した理由だ。この精神を掲げることは米国の帝国主義的政策を正当化するかもしれないが、この矛盾の放置は私にとって耐え難い。納税者として『帝国のコスト』も考えるべきだ」
 「沖縄に関しては、日本政府が米軍駐留費を支払い、米国は『おいしい契約』を交わしている。日米地位協定は、われわれに、沖縄の中にいても(日本の法制度の適用を除外する)独立を認めている。これは米軍のイラク撤退にも結び付いた要因だ。多くの人の指摘では、イラクは米国と地位協定を結ぶことを承認しなかったため、米軍は撤退を決めた。米国は国際法廷で裁かれるのを恐れている。不当に裁かれるのを恐れているからでもあるが、自らの振る舞いも恐れているのだろう」

◆「県民の声」の効果 今はみんなが沖縄知っている

 ―米ロ冷戦時をはじめとする軍拡競争をシリーズで描いたが、「中国の台頭」をどう見るか。しばしば沖縄に基地を置き続ける理由に持ち出される。
 「中国を抑え付ければ問題が起きるだろう。『小さな巨人』の成長を止めようとすべきではない。確かに中国は中国の問題を抱えている。しかし『敵』と見なすべきではない。彼らもスマートなはずだ。中国は完全な民主主義ではなく、一党支配で、固有の問題もある。とはいえわれわれは共存し、世界は多極化しなくてはならない。米国は『なぜ自分たちは常に世界中で軍事競争を続けなくてはならないのか』と自問してこなかった。1991年のソ連崩壊はその大きな機会だった。しかし覇権的政治を追求し、軍事費の規模を維持し、基地を拡張し続けた」
 ―米国も日本も変化を求める国民の意思が政治の場で示される場面は何度もあった。例えば最近の日本は米軍普天間飛行場の県外移設を掲げた民主党政権が誕生したが、結局、挫折した。
 「その観点から大衆運動が重要だ。大衆運動はリーダーに闘いのよりどころを与える。ルーズベルト元大統領は背後に大衆が付いていると思ったからこそ、金融業界の圧力を押し切り、改革を成し遂げた。ケネディ元大統領は64年の選挙で再選すれば、温めていた多くの政策を実行しようと思っていた。彼は最も変化をもたらすことを期待できる人物だった。それが再選前に暗殺された理由だと思う」
 「オバマ大統領もとても似た事例だ。彼は大きな変革と希望をもたらすと思われたが、どこかで道を失った。就任後に財界が彼に資金をつぎ込んだ結果、彼は財界の改革にわずかしか手を付けず、『テロとの戦争』に至っては何も変わらなかった。彼は腹の中では支援者の落胆を理解している。だからこそ大衆運動は必要だ。ベトナム戦争中、ニクソンは北爆の強化やコロンビアの爆撃まで考えていたが、反戦運動が73年の和平合意に結び付けた。レーガンは本気で『悪の帝国』(ソ連)を破壊したいと思っていたが、83年にニューヨークから世界中に広がった反核運動が彼の態度を軟化させた。その意味で大衆運動が功を奏した」
 「沖縄は抗議を続けている。県民の声は効果をもたらした。人口は少ないが、今はみんなが沖縄を知っている。沖縄は『われわれは本当は日本の一部でもないし、米国の一部でもない。われわれは島の住民なんだ』と明確なメッセージを発するべきだ。(公民権運動指導者で共にノーベル平和賞を受賞した)マンデラ南アフリカ共和国元大統領やキング牧師のようなリーダーがいれば、素晴らしい結果が出るはずだ。ガンジーやキング牧師の行動原則である非暴力の闘いは『受動的』ではない。表に出て声を上げれば、たとえ腕を縛られ、逮捕され、殴られたとしても、それはとても積極的な抵抗運動だ」
英文へ→Film Director Oliver Stone urges Okinawans to wage nonviolent struggle