ゲン閲覧制限 沖縄戦体験者「戦前の検閲のよう」


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 松江市教育委員会が市立小中学校に漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を求めた問題について県内の沖縄戦体験者らは「戦争体験者の声を封じる動きではないか」などと話し、危機感を強めている。

 ことし6月、自身の戦争体験を基にした絵本を出版した元白梅学徒隊の中山きくさん(84)は「戦前の検閲のような不気味さを感じる」と語った。
 戦争体験を語れるようになるまで戦後30年余を要した。「つらい、思い出したくない」という気持ちを乗り越えたきっかけは、広島、長崎での被爆者との出会いだった。過酷な体験を語るその姿に「私も戦争の真実を伝えなければ」と決意した。
 以来、子どもたちに証言活動や絵本を通じ「戦争のない世の中をつくろう」と伝え続けている。「戦争の事実を伝え、平和を訴える証言や本を隠さず子どもたちに見せてほしい」と訴える。
 中山さんの体験を聞き、絵本のイラストを手掛けた絵本作家の磯崎主佳さん(42)は「今回の閲覧制限は、必死の思いで語ってきた戦争体験者の声を封じる動きに見える」と話す。「漫画は原爆を体験した作者・中沢啓治さんの『どうしても伝えたい』という心の叫びだと思う。子どもたちにはその声や表現を受け取る自由がある。悲惨な表現を制限するのではなく、子どもが感じる恐怖や疑問を共に考えることが大人の役割だ」と力を込めた。
 一方、関西大の高作正博教授(憲法学)は、公立図書館で職員が特定の書物を廃棄したことをめぐる過去の裁判で最高裁が「著作者には自らの著作物を伝える利益がある。それを妨げる図書館の行為は違法」と認めた判決を挙げた。これを例に「何の議論や基準もなく閲覧できなくなることは、著作者の表現の自由や子どもたちの知る権利を侵害している」と説明した。
 その上で「特定の本に書いてあることの真偽を判断する権限は教育委員会にはない。教育委員会が一部の圧力に屈し、議論や基準もないままに閲覧制限の措置を取ってしまったことは大きな問題だ」と指摘した。