「糸納敵討」組踊の魅力凝縮 忠孝と勇猛さでめりはり


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捕まって糸納の按司(右端、親泊久玄)の前に連れて来られる崎原の若按司(東江裕吉、右から3人目)ら=25日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの組踊公演「糸納敵討(いとぅんなてぃちうち)」が25日、浦添市の同劇場で上演された。90分超の長編。組踊に多い仇(あだ)討ち物の一つだが、「女物狂」のようにおもちゃで子どもを誘い出してさらう場面もあり、組踊の見せ場が詰まった作品だった。

仇討ち物らしく、親子愛といった忠孝(ちゅうこう)の要素と、勇猛な討ち入りのめりはりも利いていた。立方指導は島袋光晴、地謡指導は照喜名朝一。演出は上地和夫。
 作者と成立年代は未詳。解説を務めた同劇場の宜保榮治郎・前常務理事によると、名護市宮里や宜野座村松田などに伝えられ、北部で作られたとみられる。
 粗筋は、糸納の按司(親泊久玄)が崎原の按司を滅ぼして領地を奪う。糸納は、崎原の嫡子である若按司(東江裕吉)が敵討ちを考えていると聞き、臣下の安座間の大屋子(真境名律弘)と上里川平(池間隼人)に捕まえさせる。若按司の妹おめなり(比嘉克之)は逃がされるが、若按司と弟千代松(山崎啓貴)は処刑されることになる。
 7月に親泊本流親扇会三代目家元を襲名した久玄が、力のみなぎった貫禄ある按司を演じた。安座間と上里川平は物売りに変装し、鳴子や人形を次々に取り出しながら、言葉巧みに若按司らを誘い出す。悪役らしい見せ場の一つだ。一方、崎原の遺臣である安里の比屋(宮城茂雄)と与座の大屋子(石川直也)は、若按司を助けに行くときの「道行口説」などで勇ましさを表現する。両陣営の対比が面白い。
 地謡は歌三線が照喜名朝國、岸本隼人、上原睦三。箏は大城智史、笛は宇保朝輝、胡弓は嶺井敦弘、太鼓は金城盛松。若按司らが敵に連行された後の「子持節」は、独り残された妹おめなりの心細さがにじんだ。おめなりと母親(海勢頭あける)が、若按司らと一緒に死のうと処刑場へ向かう場面は、「散山節」が悲愴(ひそう)感をかき立てた。
 助け出された若按司は、敵討ちに向かうため家族に別れを告げる。ここでも独唱の「伊野波節」で、無事を願う母の心情を聞かせる。長い歌だが、一部は3人で歌って変化を付けた。ここは初演の際に割愛された場面の一つだが、盛り込んだ方がいいと感じた。
 その後は討ち入りに向けて味方が結集し、緊張感が高まっていく。だが、最後の糸納との立ち回りはあっさりした印象を受けた。討ち入りまでが長く、期待感を抱かせただけに、もう少し剣劇を見せた方が良かったのではないか。
 本作は1998年に伝統組踊保存会が復活させ、今回が4回目の上演だった。さらに練り上げて完成度を高めてほしい。(伊佐尚記)