アジア向け企業 集積 情報通信拠点化へ 光回線陸揚げ計画


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 県は2016年度までにアジア―沖縄―首都圏をつなぐ国際海底ケーブルの整備を計画している。沖縄沖合を通過する首都圏とシンガポールを結ぶ大容量の光回線を新たに沖縄へ陸揚げし、接続する考えだ。1本の回線で首都圏と沖縄、東南アジアを一体的につなぐため、首都圏並みの通信サービス提供が可能になる見込みだ。「ビジネスの可能性が広がる」と情報通信関係者の期待も大きい。

 現在、全国のデータセンターの約7割が首都圏に集中している。東日本大震災をきっかけに事業継続計画(BCP)の重要性があらためて注目される中、リスク分散の観点から沖縄にバックアップ拠点を置く企業も増えている。県情報産業協会の仲里朝勝会長は「日本の情報の安全性を高めるため沖縄を分散拠点に位置付ける必要がある」と通信インフラ整備の意義を強調する。
 自民党の日本経済再生本部も首都直下型地震などに備え、沖縄を中継地とする国際海底ケーブルの整備の必要性を提言している。
 県は、アジアへの通信網を構築することで、同時被災リスクが低い沖縄の優位性を強みに、アジア向けデータセンター企業などの集積を図る狙いだ。
 ただ、その実現に向けた課題は多い。
 アジアへの回線は、沖縄―香港を結ぶグローバル・インターネット・エクスチェンジ(GIX)が既に整備され、運用されている。県が推進してきたGIX事業は、本格稼働した10年から利用企業は13年9月までで5~6社にとどまり、利用状況は低調だ。
 県の担当者は、新たな回線を整備する必要性について、各区間で複数の回線事業者が関わる現状に比べ、新たに陸揚げするケーブルは回線事業者が単一である点を強調。高速道路のインターチェンジの形を思い描き「通信が分断せず一貫するため、一つの通信サービスで済む。コストの低減化も期待できる」と説明する。
 陸揚げする光海底ケーブルはNTTコミュニケーションズ(NTTコム)系の「アジア・サブマリン―ケーブルエクスプレス(ASE)」と、KDDI系の「サウス―イースト・アジア・ジャパン・ケーブル(SJC)」の2経路が有力とみられ、県は年度内に経済波及効果や整備費などの調査に入り、うち1回線の陸揚げを目指す。
 情報通信関係者によると、沖縄と海外を結ぶ既存の回線は、使用容量や品質、速度など優位性が低く、需要はあっても結果的に経費がかかり、対応できない実情があるという。
 データセンターのファーストライディングテクノロジー(FRT)の石川義行取締役ソリューション営業部長は「アジアに拠点を持っている顧客企業の中にはアクセスが真ん中にある沖縄にシステムを置いて事業を手掛けたいという需要がある」と首都圏―シンガポール回線の沖縄陸揚げに期待を込める。
 その上で「そのためには整備して終わりではなく、回線をどのように活用するかが重要だ。ビジネスモデルを関係機関が連携し打ち出していく作業がより大切になってくる」と今後の課題を挙げた。
 バックアップ機能にとどまらず、沖縄に主要システム設置を働き掛けるなど情報の交差点を形成できるかが、アジアの情報通信拠点化の鍵を握る。
(謝花史哲)