琉球処分と現代重ね 「首里城明け渡し」大作にふさわしい熱演


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「嘆くなよ臣下 命どぅ宝」とつらねを唱える尚泰王(中央)=9月29日、名護市民会館

 沖縄俳優協会(春洋一会長)は9月29日、名護市民会館で、琉球史劇「首里城明け渡し」(山里永吉作、玉木伸演出)を上演した。若手からベテランまで約40人が出演。明治政府が「琉球処分」を断行する中、琉球の行く末を憂い奔走する人々を群像劇で描いた。

尚泰王が願った弥勒世(みるくゆ)は果たして訪れたのか。観客は、大国に翻弄(ほんろう)される134年前の琉球に、米軍基地問題などで揺れる現在の沖縄を重ねた。
 舞台は、明治政府に日本への帰属を迫られる1875~79年の琉球。親日本派・大和党の宜湾親方(玉木)と親中国派・支那党の亀川親方(春)の激しい議論で幕を開ける。玉木の落ち着いたせりふ回しは三司官の風格が漂う。生きるためには強国に頼らざるを得ない、と主張する宜湾だが「琉球や沖縄人(うちなーんちゅ)ぬむんどぅやる」という本心が胸が打つ。
 琉球独立を掲げる第三極の花染党も印象的だ。近年、基地問題で沖縄の「構造的差別」が指摘され、独立論が高まりつつある。沖縄の置かれた厳しい政治環境が、昔から続いていることが浮かび上がる。
 亀川に反発する息子の真山戸(嘉陽田朝裕)ら若者たちは、物語をよりドラマチックにした。思い悩む士族とは対照的に、森田豊一や吉田妙子らは百姓をユーモラスに演じた。展開に変化を付けるとともに、世変わりの中でたくましく生きる庶民の姿を描いた。
 明治政府の琉球処分官・松田道之(普久原明)は、首里城に入り廃藩置県を通達。城を明け渡し、尚泰(与座朝惟)に上京するよう命じる。臣下に見送られ船に乗り込む尚泰。王の威厳を込め、「戦世(いくさゆ)ん終(し)まち弥勒世んやがて 嘆(なじ)くなよ臣下 命(ぬち)どぅ宝」とつらねを唱えると、客席から拍手が起こった。地謡は徳原清文、恩納裕ら。つらねに続き「散山節」「干瀬節」を聞かせ、首里城と王を奪われた喪失感を表した。
 観客動員に課題を残したが、春会長が口上で「役者にとって舞台は戦場」と述べた通り、大作にふさわしい熱演だった。史劇は歌劇に比べて上演が少ないが、魅力を発信し継承を活発化させてほしい。
 「首里城明け渡し」は20日午後2時、読谷村文化センターでも上演される。問い合わせは同協会(電話)098(943)4801。
(伊佐尚記)