対決彩る歌と踊り 組踊「西南敵討」


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呉屋の大主(中央)を捕らえる南風原の若按司(右)、棚原の若按司(左)ら=19日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの組踊公演「西南敵討(しーなんてぃちうち)」が19日、浦添市の同劇場で上演された。名護市宮里に伝わる作品。テンポの良い展開、踊りや立ち回りの多さ、組踊では珍しい霊の登場など、地方の組踊らしい娯楽性の高さが印象的だった。

通常は1人の若按司が2人登場し、勇ましい立ち回りで引き付けた。統括・立方指導は親泊興照、地謡指導は西江喜春。上地和夫演出。
 呉屋の大主(嘉手苅林一)は、主君・棚原の按司とその義兄弟・南風原の按司(興照)を殺して城を乗っ取る。南風原の若按司(金城真次)は、父の霊(儀保政彦)の導きで忠臣・本部大主(名嘉山佑一)と再会。さらに同じ境遇の棚原の若按司(佐辺良和)と合流し、敵を討つ。
 地謡は花城英樹、上原睦三、玉城和樹、安慶名久美子、宮城英夫、川平賀道、石嶺哲。場面に応じて多くの歌と踊りが用いられ、対決を彩った。呉屋の陣営が夜襲を掛ける場面は「笠之段」で不穏な空気を醸し出し、立方はたいまつを持って足を踏み鳴らした。
 南風原の若按司役の金城は演技のめりはりが利いていた。冒頭、敵から逃れるため赤子の弟を抱いて山中をさまよう姿は、幼さが残る。地謡の「散山節」が心細さを駆り立てる。だが討ち入りでは切れのあるなぎなたの舞を見せ、士族の男子として成長を感じさせた。佐辺は持ち味である品のある声が若按司らしい。2人でなぎなたを繰り出すことで、呉屋との対決は迫力を増した。呉屋を捕らえる決めの場面は、左右対称の構図が映える。
 本部大主は若按司と並ぶ重要な役だ。体格の良さや精悍(せいかん)な顔立ちから若手の名嘉山佑一が抜てきされた。呉屋の陣営を1人で返り討ちにし、討ち入りでは采配を振るい猛将ぶりが際立った。公演後、名嘉山は「いい経験ができた。唱えの緩急や立ち回りなど未熟なところを一歩ずつ改善したい」と気を引き締めていた。
 その他の出演は親泊久玄、池間隼人、呉屋智、伊野波盛人、岸本隼人、平田智之、川満香多ら。
(伊佐尚記)