【1 公有水面埋立法の要件を満たしていない事項について】
(1)第4条第1項第2号関連(環境保全、災害防止)
公有水面埋立法(大正10年法律第57号)第4条では「都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲナスコトヲ得ズ」としており、同法公有水面埋立法第4条第1項第2号においては「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」としている。しかしながら、当該埋め立て事業が以下に記す内容について、環境の保全および災害の防止に配慮しているとは言えない。
とりわけ、MV―22オスプレイ(以下「オスプレイ」という。)の配備については生活環境の保全、災害防止のいずれにも関わる市民が最も懸念している事項の一つである。
(1)オスプレイの配備に伴う懸念について
オスプレイの配備については生活環境保全、災害防止いずれの観点にも関わり、市民生活へ与える不安が最も大きな問題の一つである。
日米両政府は、オスプレイの配備に先立ち、平成24年9月の日米合同委員会で、その運用について「日本国における新たな航空機(MV―22)に関する合同委員会合意」を行った。しかし、10月・11月に行われた沖縄県による調査では、「普天間飛行場の外でも離着陸モードで飛行し、安全性に大きな危惧を抱かせる運用がなされている」ことなどを確認し、「合意」が全く守られていないことを明らかにしている。
名護市においても、配備直後から国立沖縄工業高等専門学校(以下「沖縄高専」という。)裏および周辺着陸帯に離着陸するため、沖縄高専、久辺小学校、久辺中学校及び児童養護施設なごみの上空を離着陸モードで飛行し、辺野古集落上空を旋回するのが幾度となく目撃されている。平成24年11月6日には、2機編隊による離着陸・旋回訓練が確認され、辺野古区で最大で90・6デシベルを記録するなど、現状においても騒音による生活環境・学習環境等における音環境が破壊されている。
こうした飛行実態を踏まえると、普天間飛行場代替施設(以下「代替施設」という)で24機のオスプレイが飛行する際の安全および環境保全措置については、実効性ある措置が求められるが、それが全く示されていない。また、低周波音対策を含む実態を踏まえた環境保全については、オスプレイの実機飛行を行い環境影響評価を行うことが必要であるが、米国での調査結果を示すのみで一切実施されていない。実際にオスプレイの低周波音の問題が深刻であることを明らかにした研究者からの指摘がある中、辺野古近隣集落の低周波音対策が全く示されていないのは重大な欠陥である。
そもそも、オスプレイについては、開発段階から墜落事故を繰り返し、専門家からも構造的欠陥が指摘されている機種である。昨年4月にモロッコで、同年6月には米国フロリダで墜落し、今年8月には米国ネバダで着陸に失敗し機体が炎上する大事故を起こすなど、安全性についても常に問題視されている。
また、レックス・リボロ元国防分析研究所主席分析官が米下院監視・政府改革委員会公聴会(2009年6月23日)で証言しているとおり、オスプレイはエンジン停止の際、安全に着陸するための自動回転(オートローテーション)能力がなく、海兵隊や製造業者のベル・ボーイング社も事実上これを認めている。日本の航空法(昭和27年法律第231号)では、「回転翼航空機は、全発動機が不作動である状態で、自動回転飛行により安全に進入し着陸することができるものでなければならない」(同法施行規則付属書第1)と規定しており、この基準に当てはまらない航空機は「耐空証明」を受けられないため「航空の用に供してはならない」(同法第11条)とされている。しかし米軍機は日米地位協定に基づき同法が適用されないため、沖縄の空をわがもの顔で飛んでいるというのが実態である。
さらに、米国防総省監査室がまとめた報告書によると、オスプレイの機体整備や関連書類作成に多数のミスが見つかっており、海兵隊がこれまで示してきたデータは「信頼できない」とも結論づけられている。
本来ならば環境影響評価の手続きを経て、その安全性が確認されるべきであるにもかかわらず当該手続きを経ず沖縄に配備しているのは、安全性への配慮を著しく欠いている。本事業の実施は、住民の安心・安全を保障するという地方自治体の最重要責務の遂行を危うくするものであり、到底認められるものではない。
(2)生活環境保全への影響について
音環境の保全について
名護市においてはキャンプ・シュワブで行われる廃弾処理やその他訓練による爆発音を始め、複数の着陸帯を利用した離着陸訓練や民間地上空での旋回飛行が日常的に行われるなど、周辺住民は深刻な騒音被害に悩まされている。
爆発音については最大騒音レベルで100デシベルを超え、80デシベル以上が1日で30回以上記録された日もある。また、航空機騒音については久志区・豊原区・辺野古区における被害に加え、西側の許田区・幸喜区においても昼夜を問わずヘリコプターやオスプレイ等の低空飛行が行われており、その被害は深刻な状況にある。久志区では平成24年に年間990回の航空機騒音を計測し、最大で94・1デシベルを記録している。今年8月にはキャンプ・シュワブに隣接するキャンプ・ハンセンに米軍のヘリHH―60が墜落し、周辺住民に大きな不安を与えた。
一方、キャンプ・シュワブ周辺には北部訓練場、キャンプ・ハンセン、新たな着陸帯が建設されている伊江島補助飛行場など、多くの米軍海兵隊基地や訓練場が点在している。
また、現在の普天間飛行場では1日平均50回以上、年間約2万回の航空機離発着が行われており、騒音の被害は最大で120デシベルを記録している。平成16年8月には沖縄国際大学に米軍大型ヘリのCH―53が墜落するなど、住民生活を脅かす大きな問題となっている。
今後代替施設が建設されると、周辺米軍海兵隊基地の拠点となり、現在のキャンプ・シュワブの騒音被害、普天間飛行場における騒音被害を鑑みても、音環境への被害増大は明らかである。
辺野古ダム周辺の土砂採取による影響について
辺野古ダムは久志地域唯一の水がめである。その周辺における埋め立て土砂採取について、赤土等流出防止対策などの環境保全措置は示されているものの、沖縄特有の気候による集中豪雨や台風襲来時の降雨により、沈砂池等から越流する可能性も否定できないが、これらについて辺野古ダムへの赤土等流出防止対策が示されていない。
また、名護市の久志地域水道施設整備計画においては、辺野古ダムを廃止して沖縄県企業局から受水するのは平成31年を予定している。一方埋め立てに係る概略工程においては、工程1年目から埋め立て土砂発生区域における土砂の採取が位置付けられており、土砂採取による辺野古ダムの水質汚染が起こった場合は、甚大な影響を受けることが懸念される。
キャンプ・シュワブ内からの土砂採取について
キャンプ・シュワブにおいては、退役軍人がキャンプ・シュワブ内で「枯葉剤エイジェント・オレンジのドラム缶を幾つも見た」と証言している(2011年8月13日付け The Japan Times)。
一方、沖縄市のアメリカ空軍嘉手納基地の一部跡地にあるサッカー場から、ベトナム戦争時に使用されていたダイオキシンと思われるドラム缶が埋め込まれていたことが確認された。
これらのことから鑑みると、キャンプ・シュワブ内からの土砂採取については、当然環境影響評価が行われるべきである。汚染された土砂を用いて公有水面の埋め立てを行えば、自然環境にはもちろんのこと、漁業や観光業等への影響も懸念される。
埋め立てによる生活環境への影響について
代替施設建設に伴う公有水面埋め立てが行われれば、波高や潮の流れが大きく変わる可能性が高く、周辺環境が多大な影響を受けることが懸念される。
特に、辺野古区民が日常的に憩いの場として利用している平島及び長島については、代替施設建設に伴う潮流のシミュレーションが正しく行われていないという指摘(日本自然保護協会(2012、2013))もある中、当該施設との距離が非常に近いことから、流れに大きな変化が生じたり、砂浜が消失するなどの影響が考えられる。それに伴い、今まで同様に利用することは困難となることが懸念される。
また、代替施設建設予定地近くの天仁屋川河口からバン崎にかけた海岸に国指定天然記念物「名護市嘉陽層の褶曲(しゅうきょく)」があり、海流の変化等による海岸線の変化など、影響が懸念される。
上記の理由により、潮流のシミュレーションを正確に行い、環境への影響をきちんと予測することが必要である。
また、辺野古漁港周辺に設置が予定されている作業ヤードの建設が行われれば、松田の浜、東松根前の浜、ハーリー会場が消滅することになり、地域住民の伝統文化および地域間交流の場所が失われることになる。
漁業への影響について
辺野古漁港で主に水揚げされるのは、ブダイ、タマン、イセエビ、サザエ等であるが、辺野古漁港近海ではブダイやタマン等の稚魚期も確認できるほか、久志・豊原地先でのモズクの養殖、安部崎でのシャコ貝の種苗放流等が行われている。
代替施設建設に伴う公有水面埋め立てが行われれば、前項で述べた潮流の変化による周辺海域の環境の変化に加え、航空機による騒音や低周波音による海域生物への影響が懸念され、結果として漁業に甚大な被害を与えることが予測される。
また、作業ヤードの建設により、辺野古漁港航路内および漁港泊地に土砂が流入する恐れも懸念される。
(3)自然環境保全への影響について
海草藻場について
海草藻場は国の天然記念物に指定されているジュゴンの餌場であることはもとより、海域生物の生育環境の一部として辺野古・大浦湾の生物多様性維持を担っている。
事業者は、代替施設建設に伴って消失する海草藻場について、移植をすることで対応するとしている。しかし、環境影響評価補正評価書(以下「補正評価書」という。)に書かれている海草藻場への評価は、海草の種ごとの特性の考慮や、被度が低い海草藻場に対する評価がなされていないなど、亜熱帯の海草藻場に関する専門的知見が反映されていない。補正評価書では中城港湾(泡瀬地区)の事例を挙げ、海草移植があたかも成功したかのように書かれているが、機械移植と手植移植のいずれも失敗に終わったことは明白である(日本自然保護協会(2007))。
また、参照されている水産庁・水産総合研究センター(2008)の再生成功例も、生残率等が記されていない上、限定された種のみを対象種とするなど、厳密に検証されていないものである。
さらに、補正評価書で海草移植候補地とされている豊原沖、久志沖は、海草移植候補地としてふさわしくないとの調査結果もある(日本自然保護協会(2013))。
よって、代替施設本体や海上ヤードを含む関連施設の建設に伴い海草の移植を行っても失敗に終わることは明白であり、自然環境に大きな影響を及ぼす。
ジュゴンの生息環境の保全措置について
補正評価書におけるジュゴンの個体群等が科学的に正しく評価されていない。個体群および個体群存続可能性分析(PVA)が行われているが、ここで用いられているジュゴンの繁殖率等に関する数値は、沖縄のジュゴン個体群にそのまま適用できるものではない。
また、分析に用いられている環境収容力についても、生息地を「沖縄島周辺」と「先島諸島を含めた沖縄県全体」の2ケースを想定し、その広範囲に占める海草藻場面積と消失面積の割合を示すなど、実際のジュゴン生息域よりも広い範囲で評価が行われている。しかし、特に近年において、ジュゴンやジュゴンの食み跡が確認されているところは沖縄島北部の沿岸であり、それを反映させた定量的な予測・評価が行われていない。
事業者は平成24年に行った調査で代替施設建設予定地でのジュゴンの食み跡を確認していたにもかかわらず情報を公開しないばかりか、評価書において「ジュゴンは辺野古・大浦湾の海を利用していない。したがって辺野古での基地建設とその運用はジュゴンの存続にあまり影響しない」との旨結論している。しかし、大がかりな事前調査で辺野古・大浦湾の海をかき回し、ジュゴンを追い出した上で行われた調査の結果は、食み跡のデータを公表しなかったことも加え、極めて信ぴょう性に欠けると言わざるを得ない。
辺野古・大浦湾には、豊かな海草藻場があることは事業者の調査でも明らかである。3頭生存するとされるジュゴンのうち、一番若い個体が他の個体と競合しない自らの餌場を求めて行動していると予想され、沖縄島最大規模とされる辺野古の藻場を保全することがジュゴン保護にとって不可欠である。
さらに、「工事による影響と判断された場合は速やかに施工方法の見直し等を行う」とあるが、どのようにして工事の影響かどうかを判断するのかすら不明であり、同様に「米軍にマニュアルを提供する」等、具体的な方法は一切示さず、後は米軍任せにする姿勢など、実行可能性に乏しい。
サンゴ類の生息環境の保全措置について
サンゴ類は海草藻場同様、辺野古・大浦湾の生物多様性維持において極めて重要な役割を果たしている。しかし、事業者は辺野古・大浦湾海域のサンゴ類の生息現状を過小評価している。評価書の中で用いられている過去のサンゴ被度のデータは適切でなく、現状やサンゴ類のポテンシャルの評価ができていない(日本自然保護協会(2013))。沖縄島の周辺海域におけるサンゴの生息状況の調査(沖縄県自然保護課(2011))では、サンゴの被度が10%以下の分布を示す海域が多いことがわかっている。他方、辺野古海域のサンゴ類の生息状況については、礁斜面では被度が約40パーセントまでに回復するなど、良好であることはまちがない(沖縄リーフチェック研究会(2013))。これらのことから、沖縄島の周辺海域と比較して特にこの海域のサンゴ類の生息状況が悪いとは言えず、「本海域のサンゴ類の生息状況は良好ではない」とする補正評価書の記述は誤りである。
また、事業者は日本に生息する400種以上のサンゴを識別しておらず、評価書では「サンゴ」とひとくくりに扱っており、その姿勢は移植技術の導入方法についても同様である。環境保全措置としてサンゴの移植を位置付け実施するのであれば、どのような環境(場所)のサンゴ群集・群体をどのような環境(場所)へ移動するのか、その成功率はどの程度のものになるのかを工事開始以前に検証すべきである。
サンゴ移植は確立した技術ではなく不確実性が高く、日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会が公表した「造礁サンゴ移植の現状と課題(2008)」にもサンゴ移植がサンゴ礁の保全や再生にどの程度寄与するか不明であると記されている。したがって、移植技術はサンゴ類の環境保全措置として取り上げられるような状況にはない。移植とともにサンゴ類への環境保全措置として挙げられているのはケーソン等の表面への加工のみであるが、こちらも保全効果の程度は低い。
ウミガメの生息環境の保全措置について
補正評価書によると、ウミガメに関して、平成19年度からの5年間の調査のうち、キャンプ・シュワブの地形改変地域において、平成20年度からの4年間は連続して上陸し、そのうち平成20年度からの3年間は産卵し、平成20年度と平成21年度は孵(ふ)化が記録されている。また上陸数も、安部からバン崎に次いでキャンプ・シュワブが砂浜が多い。さらにはメディアの情報公開請求により、ウミガメがこの海域を利用していることが、より一層明らかになった。これらの結果からわかるのは、ウミガメは確かにキャンプ・シュワブの砂浜を利用しているということであり、キャンプ・シュワブ地区の海岸を「上陸には好適ではない」、「産卵の可能性が低い」などと評価している補正評価書の記述は誤りである。
また、環境保全措置として記している「ウミガメ類の上陸、産卵にとって良好な環境条件を整え、利用しやすい場を創出する」という記述も、上陸数と砂浜のコンディションとの関連性すら見つけられない状況でありながら実効性を伴うとは考えられない。
本来、本海域から他の海域にウミガメが逃避しないような環境保全措置を取るべきであり、補正評価書に記述されているように日本の沿岸域のウミガメ類が減少傾向にあることを取り上げ、逃避しても影響はないとする判断は誤りである。
埋め立て土砂について
公有水面埋め立ての認可に当たっては、使用する埋め立て土砂の採取地および埋め立て地の双方における環境保全措置が適切なものであると確信できることが必要不可欠の条件である。にもかかわらず、環境影響評価の時点では事業実施に必要な埋め立て土砂の調達先の詳細が記載されておらず、公有水面埋立承認願書にてその詳細が初めて明らかにされた。
辺野古・大浦湾の生物多様性豊かな海は、やんばるの森とともに世界自然遺産の登録候補地であるが、外来種の移入阻止に向けあらゆる努力を払うことが登録の必須の条件となっている。しかし、本件埋立申請においては、「外来生物法に準拠した対策を講ずる」とあるものの、外部から購入する土砂に、生態系に悪影響を及ぼす外来生物が混入しているかを誰がどのように確認するのか、すなわち混入している場合の供給元における適切な駆除、駆除されたことの証明、影響を及ぼさない材料の選定を担保するプロセス等が示されていない。これでは混入を防ぐことはほぼ不可能であり、希少な動植物が生息している「やんばる」の特異な環境にとって、外来種が混入する可能性が高く、環境保全上大きな問題がある。
また、沖縄県内から購入すると記されている海砂60万立方メートルについても調達先の詳細を明記し、埋め立て地ならびに土砂採取地双方において適切な環境保全措置が講じられるとの保証がなされるべきである。
沖縄島周辺からの購入土砂運搬経路と海砂の採取について
代替施設建設に伴う公有水面埋立てに用いられる沖縄島周辺からの購入土砂の運搬経路は、辺野古・大浦湾海域から古宇利島周辺のジュゴンの回遊ルートとほぼ同じであり、船の航行や音・震動がジュゴンに与える影響が明らかにされておらず、環境影響評価を実施すべきである。
また、海砂の採取について、その採取地点の詳細な場所は不明なものの、ジュゴンが餌場としている海草藻場付近の海域も含まれており、採取時の濁水を始め、海砂採取による海底地形の変化とそれに伴う海流や地形の変化が海草藻場にも大きな影響を与えることや、ジュゴンを始めとする当該海草藻場を利用する海域生物への影響も懸念される。
(4)災害防止への影響について
津波の被害について
沖縄県津波被害想定調査(平成25年3月)の津波浸水予想図では、今後沖縄県で起こり得る最大クラス(マグニチュード7・8~9・0に設定)の地震による津波では名護市東海岸地域の最大遡上高は嘉陽地点で27・5メートル、瀬嵩地点で20・7メートル、久志地点で18・6メートルと予測しており、公有水面を埋め立て、水面から10メートルに設置される代替施設は甚大な被害を受けるとともに、海流の変化により津波の遡上高が高まり、その影響は周辺地域にも及ぶ可能性が想定される。
辺野古川周辺における冠水等について
事業者の見解によると辺野古川は「冠水等の災害については、環境影響評価の対象ではない。作業ヤードの河川側護岸の整備に伴い、河川の流れが現状により円滑になるものと考えられ、少なくとも現状より悪化することはない」としている。しかしながら、辺野古川周辺は、現状においても台風のたびに道路の冠水や家屋の浸水等の深刻な被害に悩まされている地域であり、作業ヤードの設置に伴い河口が狭まることにより災害リストがさらに高まり、周辺住民の生活がこれまで以上に脅かされることが懸念される。そもそも台風時の影響については、代替施設建設事業全体通じて環境影響評価法の趣旨に沿った評価が行われていない。
(2)第4条第1項第3号関連(国または地方公共団体の計画等)
公有水面埋立法第4条第1項第3号では「埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)」ノ法律ニ基ヅク計画に違背セザルコト」としている。しかしながら、当該埋め立て事業の実施は以下に記す国や県そして名護市の計画等に違背し、甚大な影響を与えることとなる。
(1)国の計画等について
「生物多様性基本法」について
生物多様性基本法(平成20年法律第58号)では、「地域固有の生物の多様性の保全を図るため、わが国の自然環境を代表する自然的特性を有する地域、多様な生物の生息地又は生育地として重要な地域等の生物の多様性の保全上重要と認められる地域の保全等に必要な措置を講ずるものとする」と規定している。また「絶滅のおそれがあることその他の野生生物の種が置かれている状況に応じて、生息環境または生育環境の保全、保護および増殖のための事業その他の必要な措置を講ずるものとする」としている。
「生物多様性国家戦略」について
生物多様性国家戦略においては、2012年から2020年までの目標や望ましいイメージとして、沿岸地域においては「藻場・サンゴ礁等の保全や生物の生息・生育環境の再生・創出」等を挙げている。また、南西諸島等においては「ジュゴンが泳ぐ姿やウミガメの上陸・繁殖が見られる」というイメージを掲げており、生物多様性を保全するために自然環境や生息・生育域、また、生態系の保全を推進することを目標としている。
「奄美・琉球諸島」の世界遺産登録に向けての取組について
日本政府は、固有な動植物の保護、絶滅のおそれのある種や生物多様性の保存等を理由に「奄美・琉球」を世界遺産暫定一覧表に自然遺産として記載することを決定し、今後記載のために必要な文書をユネスコ世界遺産センターに提出するとしている。
以上、公有水面埋立法第4条第1項第2号の要件を満たしていない事項の(3)「自然環境保全への影響について」で明らかにしたとおり、本件埋め立て事業はこれら国の生物多様性保全の計画等と整合しない。
(2)県の計画等について
「生物多様性おきなわ戦略」について
沖縄県は、生物多様性基本法に基づき、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する県の基本的な計画として、生物多様性国家戦略を基に「生物多様性おきなわ戦略」を策定している。同戦略の中で、「目指すべき北部圏域の将来像」としてジュゴンとその生息環境の保全、ウミガメが産卵する砂浜の保全、また、サンゴ礁の保全を掲げている。さらに、生物多様性の損失を止める具体的な取り組みとして、生態系を保全する区域の拡大を図るとともに、世界的に貴重な自然環境の世界自然遺産登録を目指すとしている。
「自然環境の保全に関する指針」について
「自然環境の保全に関する指針」は、沖縄県における環境保全の基本となるべき指針である。大浦湾一帯の生態系は山・川・海が連動し、独特の生態系を絶妙なバランスの中で維持している。同指針の中で、大浦湾を有する当該事業実施区域およびその周辺域は「自然環境の厳正な保護を図る区域」として「ランク1」と位置づけられており、沖縄県内において生物多様性保全上最も重要な地域の一つである。また、埋立土砂発生区域の大部分はリュウキュウマツ群落等から沖縄島北部の極相林であるイタジイ群落へ遷移が進む「自然環境の保護・保全を図る区域」で「ランク2」に位置付けられており、近い将来「ランク1」になる可能性があるとされている。
「琉球諸島沿岸海岸保全基本計画」について
琉球諸島沿岸海岸保全基本計画においては、沿岸域を県民、国民、そこに生息する動植物の共通の財産と位置付け、海岸を維持、復元、創造し、次世代へ継承していくことを海岸保全の基本理念としている。この理念のもと、各種海岸災害からそこに暮らす人々の生活を防護し、美しい海岸や動植物を保全するとともに古くからの伝統行事や日常生活の場として、あるいは観光資源としての価値の高い空間を確保し、防護と環境、利用が調和した総合的な海岸の保全を推進するとしている。
辺野古・大浦湾周辺を有する名護市東海岸地域については、同計画の中でも「北部東ゾーン」として、「崖海岸が多くほぼ全域に貴重な自然植生、リーフ内環境及び優れた海岸景観を有しており、優れた自然環境が観光資源ともなっている」として高い評価を受けており、また、「良好な自然環境の保全と点在する集落で生じている海岸災害の防止が望まれる」としてる。
国の計画等と同様に、本件埋め立て事業はこれら県の計画等と整合が取れない。
(3)市の計画等について
「第4次名護市総合計画」について
第4次名護市総合計画(平成21年3月)においては、『豊かな自然や限られた地球環境を維持しながら、人と自然と地域社会が生命豊かに支え合う「共生のまち」』をうたっている。また、当該事業実施区域周辺に関しては、市東海岸地区として、その将来目標に「地域風土を生かした交流空間の形成~自然と共生する地域環境づくり~」を掲げ、四つの基本方針を示している。
(1)自然を活用した交流の支援
(2)地域の生活支援とコミュニティー環境の整備
(3)金融・情報通信国際都市構想の推進
(4)農水産業を中心とする産業基盤の育成
その基本方針に基づき、具体的な事業としては、二見以北地域の活性化に向けて、その拠点である「わんさか大浦パーク」を中心に、「やんばる風景花街道」や「大浦マングローブ林自然体験施設整備」、旧嘉陽小学校跡地を利用したウミガメの幼体飼育・観察や回遊調査を行う調査施設の整備等、自然を活用した取組が実施されている。
「名護市景観計画」について
名護市景観計画(平成25年3月)では、「三つの海とやんばるの森に抱かれた山紫水明 あけみおのまち なご」を市の景観将来像として定め、市の景観形成方針の中では「青く澄んだ三つの海と緑深きやんばるの森がつくりだす特徴ある景観をまもり、育て、いかす」としている。また、市東海岸地域における景観将来像を「緑豊かな山々と懐深き大浦湾 花と緑が育む朝日輝く水の里東海岸」として定め、東海岸地域の景観形成方針の中では「東海岸景観軸では、自然と調和した印象的な沿道景観を育てる」としている。
「名護市都市計画マスタープラン」について
当該事業実施区域周辺は、名護市都市計画マスタープラン(平成18年8月)において、「21世紀モデル都市の創造」(地域の活力を導く21世紀型産業の振興と人々が安心して住めるまちづくり)を将来像として定め、情報通信・金融関連産業の集積による新産業都市の形成と、高等教育機関、雇用人材育成機関、技術研究機関等の集積による研究・学園拠点の形成を図り、これら各拠点機能を支えネットワークする基盤を確保するとともに、定住・交流を推進する質の高いリゾートタウンの形成を目指すと位置付けられている。
「名護市土地利用調整基本計画」について
当該事業実施区域周辺は、名護市土地利用調整基本計画(平成18年8月)において、北部振興の一翼を担う地域として、教育・研究や情報・通信・金融業務、産業・交流、医療・福祉機能等や生活基盤の充実により地域の都市機能の強化を図る地域として周辺の優れた自然環境に留意した名護市の「副都心」として位置付けられている。
「名護市観光振興基本計画」について
名護市観光振興基本計画(平成25年3月)では、基本コンセプトを「自然とまちが融合した魅力あふれる“やんばる観光の拠点・名護”」としている。その将来像は「先人たちが守り育んできた地域資源の魅力によって誘客を図り、観光客と市民の交流を通して産業が育まれ、自然とまちの魅力が共存する北部の観光拠点として発展するまち」としている。
国、県の計画等と同様に本件埋め立て事業は、名護市の土地利用または環境保全に関する計画等と整合せず、本市の基本理念の一つである『豊かな自然や限られた地球環境を維持しながら、人と自然と地域社会が生命豊かに支え合う「共生のまち」』に反しており、名護市の将来に大きな影響を与える。
(3)第4条第1項第1号関連(国土利用上適正かつ合理的なること)
公有水面埋立法第4条第1項第1号においては「国土利用上適正カツ合理的ナルコト」としているが、当該事業の実施については、上記同法第4条第1項第2号および第3号関連で指摘した理由から、国土利用上適正かつ合理的とはいえず、同法第4条第1項第1号に違背している。