<公有水面埋立承認申請書に関する名護市長意見書案>3


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 【2 事業の不適切性について】

 「国外・県外への移設が適切でない」との事業者の主張について

 日本政府は、抑止力の観点、地理的な観点、そして普天間飛行場の危険性除去において、「普天間飛行場代替施設の建設は辺野古とするのが唯一有効な解決策である」としている。しかし、グアム、オーストラリア、ハワイへの9000人の在沖海兵隊移転の計画や、2018会計年度をめどに予定されているオーストラリアへの強襲揚陸艦配備の計画などを鑑みると、新たな基地を建設することが本当に必要なのか整合性がとれない。現に、沖縄県知事公室地域安全政策課が発行した「変化する日米同盟と沖縄の役割」の中で、新アメリカ安全保障センターのパトリック・クローニン上級顧問は「最適とは言えない可能性のある計画に多額の投資を行い、損失を生む前に、軍事計画立案者の意見に耳を傾けるべきだ」と辺野古移設に異論を唱えている。また、ジョージ・ワシントン大学のマイク・モチヅキ教授らは「米国がアジア太平洋地域で果たす安全保障上の役割を損なうことなく、海兵隊の沖縄駐留を大幅削減することは可能だ」と提言している。

 よって、「普天間飛行場代替施設の辺野古移設が唯一有効な解決策である」と断定する事業者の主張は整合性を欠き、ただ単に普天間飛行場の危険性を辺野古に移すだけである。

 環境影響評価の手続きについて

 環境影響評価は科学性と民主性を二本の柱とする行政手続きであるが、先に述べた大がかりな事前調査がジュゴンを辺野古の海から追い出した可能性の検証がされていないことなどは、科学性を欠くものである。また、オスプレイの配備、飛行経路の変更等、市民が意見を出すことのできない環境影響評価の最終段階である評価書において明らかにしたのは、本計画のずさんさを象徴している。

 とりわけ、オスプレイに関して埋め立て承認願書に添付された環境保全計画は平成24年12月末に提出された補正評価書そのものであるが、これはオスプレイ配備前の平成24年2月・3月に知事が提出した環境影響評価書に対する579件の意見に対応して作成されたものである。そのため、平成24年10月のオスプレイ配備以後明らかになった問題に全く対応していない。結果、低周波音の評価ではCH―53ヘリコプターでは基準値を下回ったが、オスプレイでは基準値を上回った結果となり、環境影響評価書で矛盾を露呈している。

 飛行経路についても、方法書や準備書の中では「周辺地域上空を回避する」という平成18年の名護市長および宜野座村長との基本合意を基に台形となっていた。しかし、評価書の段階で楕円(だえん)形へと変更され、「周辺地域上空を基本的に回避する」とし、住宅地上空の飛行を明確に否定していない。また、米軍の「運用上の所要等」で楕円形場周経路を外れる場合もあるとし、事実上住宅地上空を飛行することがあることを認めている。これまでの米軍の運用を踏まえると、日常的に住宅地上空を飛行する可能性が極めて高い。

 これらに加え、事業者がジュゴンの食み跡やウミガメの上陸を公表せず「不都合な真実」を隠してきた姿勢等は「建設ありき」「結論ありき」で環境影響評価の基本理念を無視しており、その要件である市民への公開性をも満たしておらず、科学的にも民主的にも評価が行われていない。

 よって、環境影響評価法の正しい手続きを踏んでいない保全措置の計画は、環境影響評価書に対する知事意見で示されたように、「生活環境や自然環境の保全に資することは不可能」である。

 美謝川の切り替えについて

 美謝川の切り替えは、多自然型工法により、人工的な水路の形状をできるだけ自然河川に近づけることが目的ならば、現在の美謝川の生物相や生態系を、どの程度代償することができるのか、評価するべきである。

 一般廃棄物の処理について

 事業者は代替施設からの一般廃棄物の受入れについて、名護市に新たに整備されると想定される最終処分場の利用を視野に入れ、「今後、名護市との調整に努めます」としているが、名護市が進めている名護市一般廃棄物処理施設整備計画(焼却施設、最終処分場、リサイクルセンター)は、米軍基地から排出される一般廃棄物の受入れを想定した計画とはなっていない。

 企業局から取水することについて

 事業者は取水に関して「将来は沖縄県企業局からの供給を受けることになる」としているが、水道事業者である名護市が一般の需要者に水を供給する事業であるのに対し、沖縄県企業局が行っているのは「水道用水供給事業」であり、水道事業者に水道用水を供給する事業である。よって、代替施設は沖縄県企業局の給水対象ではないことから、沖縄県企業局から直接給水できない。

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