『さよなら、アドルフ』 加害者家族から描くナチスの罪


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ナチスドイツによって迫害された人たちを描く映画は多々あるが、加害者家族から描いた作品は珍しい。本作の主人公は、ナチス親衛隊幹部を父にもった少女ローレと、彼女の幼き妹・弟たち。ヒトラーが自殺し、ドイツが敗戦すると、ローレの両親は連合軍に拘束されてしまう。彼女は妹たちを連れ、900km離れた祖母の家を目指すことになる。

 それは、現実を突きつける厳しい旅だ。母から預かった高価な貴金属は、ほんのわずかな食料にしか換わらない。身元がバレれば迫害される危険性もあったが、それを救ってくれたのがユダヤ人の青年という皮肉。そして人々の会話や新聞記事で知ることになる、父親が犯していた大罪…。彼女は一生、罪悪感を背負って生きていくことになるのだろう。
 本作はナチスの罪を改めて問いただすと同時に、いまだ歴史を引きずって争いを止めぬ我々への問いかけでもある。だが理性では分かっていても、憎しみの連鎖を断ち切ることは難しい。筆者は今年、イタリア・トリエステで強制収容所を見学してきたばかりだけになおさら実感するのだが、昨今のアジア諸国における反日感情を見てもしかりだ。ただ繰り返し戦争映画が製作される背景には、悲劇を繰り返さないという作り手の思いがあることを忘れてはならない。★★★★★(中山治美)

 【データ】
監督・脚本:ケイト・ショートランド
共同脚本:ロビン・ムケルジー
出演:サスキア・ローゼンダール、カイ・マリーナ
1月11日(土)から東京のシネスイッチ銀座、全国順次公開
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

(C)2012 Rohfilm GmbH,Lore Holdings Pty Limited.Screen Australia,Creative Scotland and Screen NSW.
中山 治美