『旅人は夢を奏でる』 正月にほっこりしたい人に


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 リドリー&トニー・スコット兄弟、ゲイリー&ペニー・マーシャル兄妹etc…映画監督として活躍している兄弟は多々いるが、遺伝なのか環境なのか、作風が似ているのが面白い。本作のミカ・カウリスマキ監督は、アキ・カウリスマキ監督の兄。アキ作品と言えば、社会の片隅で生きる人たちのしょっぱい人生を、とぼけた笑いをちりばめて温かく描き出すのがお得意。本作の主人公も相当にしょっぱい。

 ピアニスト・ティモの前に、生き別れた父親が35年ぶりに出現。いきなり一緒に旅をしようと持ちかける。それはティモの生い立ちにかかわる旅で、出るわ、出るわの知られざる真実。冷静に考えたらすんごい展開で自分だったら絶対グレてやる!のレベルなのだが、世捨て人のような親父の存在とゆる~い笑いで、なんだか、とっても良い話に思えてしまう不思議な魅力を放っている。
 特に男子にはグッと来るシーンがある。父親も元ミュージシャンだったらしく、ふと立ち寄ったラウンジでまさかの親子共演を奏でるのだ。父親役のヴェサ・マッティ・ロイリはフィンランドの国宝級ミュージシャンだそうで、その歌声は絶品。言葉はなくとも感じる親子の血、人生の先輩としての尊敬の念が、親子の確執をも溶かしてしまう。音楽好きのミカならではの名シーンだ。
 本作は昨年夏、フィンランドで大ヒット。正月にほっこりしたい人にはぜひ。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督・共同脚本・プロデューサー:ミカ・カウリスマキ
撮影:ヤーリ・ムティカイネン
出演:ヴェサ・マッティ・ロイリ、サムリ・エデルマン
1月11日(土)から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラム、全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山 治美