『「沖縄振興体制」を問う』 特措法改正の先を展望


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『「沖縄振興体制」を問う』島袋純著 法律文化社・4800円

「沖縄振興体制」を問う: 壊された自治とその再生に向けて

 「時機を得た」出版とは本書の出版をいう。県知事と自民党県連が公約を覆し国策に隷従する沖縄の状況を打開し、未来を展望するための分析と概念が本書には詰まっている。
 序章と終章を含む全7章からなる本書は、復帰及び復帰後40年間の「沖縄振興開発体制及び沖縄振興体制」を問い、そして「沖縄振興特別措置法」一部改正の先を展望する。

 復帰後の「沖縄振興開発体制」の大前提は「在沖米軍基地の自由使用と安定維持」であり、沖縄の「軍事植民地化」である。著者は「(沖縄の)日本復帰は『植民地ですらない、それ以下の米軍による軍事占領』から日米両国の軍事的な『植民地』に昇格しただけの状況」と喝破する。
 「沖縄振興開発体制」下で国政において「非争点化」されていた「沖縄問題」を1995年に大田県政が「争点化」する。政府は再度「非争点化」すべく島田懇談会事業や北部振興など沖縄県を飛び越え、基地所在市町村を直接コントロールする仕組みと同時に「沖縄振興体制」を作り出した。
 著者は、沖縄の統治構造や政治行政制度を規定する「最大の要因は、日本の戦後政治の基本構造である『戦後国体』(=安保体制)を護持するために制度が構築されているということであり、そのためには『沖縄問題』を国政レベルにおいて『非争点化』しなければならず、それこそが沖縄の統治の仕組みの本質」であると結論づける。
 新しい沖縄振興一括交付金制度を、「沖縄振興体制」とは違う自治を作り出す制度としうるかは「沖縄の主体の確立と回復」にかかると著者は言う。県知事や自民党県連の行為は沖縄の尊厳を毀損(きそん)した。著者がそう呼ぶ「憲法政治の実現(人権、自治、平和の追求、そして政治的主体性の回復)を目指した、沖縄の民衆的な抵抗運動」こそが、沖縄の主体の確立と回復をなす。現在がとても重要な岐路であるゆえんである。
 そして国際法上の「人民の自己決定権」を有す存在であるとの沖縄の自己認識と、国際的な恊働が鍵となるとみている。
 困難な状況下にあって、沖縄の「自治」を展望する必読の書である。(宮城康博・著述業)
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 しまぶくろ・じゅん 1961年生まれ。政治学博士。琉球大学教育学部教授。共著に「沖縄論-平和・環境・自治の島へ」など。