琉球芸能を網羅 新作歌舞劇「今日ぬ誇らしゃや」


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踊り手が群舞する中、未来を見詰める(中列右から)真三郎、平敷屋朝敏、玉城朝薫、樽金、ウサ小=26日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわ10周年記念特別公演の第1弾となる新作歌舞劇「今日(きゆ)ぬ誇(ふく)らしゃや」(大城立裕脚本、嘉数道彦演出)が25、26の両日、浦添市の同劇場で上演された。沖縄芝居風の歌舞劇に、組踊や中城村伊集の打花鼓(ターファークー)などを劇中劇で盛り込み、琉球芸能を網羅するにぎやかな舞台となった。ベテランから若手まで総勢70人近くが出演し、劇場の節目を祝い芸能の発展を願った。音楽は照喜名朝一、振り付けは玉城千枝、言葉指導は八木政男。

 玉城朝薫(平良進)の弟子、真三郎(宮城茂雄)と樽金(佐辺良和)は、龍潭修復工事をする次良(春洋一)の娘ウサ小(知念亜希)に恋をする。朝薫は、冊封使を歓待する組踊の演者に真三郎を、ハーリー担当者に樽金を選ぶ。樽金とウサ小が恋仲になり苦しむ真三郎。朝薫の高弟平敷屋朝敏(大湾三瑠)は、ウサ小を不作法な薩摩侍(高宮城実人)から守り、樽金と真三郎を任務に集中させるため、ウサ小を辻に隠す。
 前半は、辻でウサ小と樽金が別れる場面が秀逸だ。2人が傘に隠れて抱き合う中、真三郎がやりきれない表情で立ち去る。同時に別の遊郭では、遊女ツル(小嶺和佳子)と薩摩の在藩奉行東山(玉城盛義)が別れ、二つの悲しみが交差する。雨と傘がしっとりとした雰囲気を醸し出し、城間徳太郎と女性地謡の独唱が寂寥感をかき立てる。瀬名波孝子、真栄田文子、仲嶺眞永らベテラン役者は、滑稽なジュリの奪い合いでめりはりをつけた。
 みずみずしい恋物語の一方、大和と唐の二重支配を受ける琉球の苦しい立場や、芸能を政治に利用する一面も描かれる。朝薫は、恋を知らずに国に尽くす若者の物語を作ることに葛藤しながらも「執心鐘入」を完成させる。朝敏は樽金に刺激を受け、恋愛がテーマの「手水の縁」を完成させる。二つの組踊の抜粋で、西江喜春と若手地謡が味わい深い歌を聞かせた。
 真三郎は芸に開眼し、樽金は恋に突き進む。最後は「踊りこはでさ節」に乗せ、花笠と四つ竹で華やかに群舞する。全登場人物が見守る中、樽金と真三郎が花道へ。芸能の未来に向けた出発を象徴させた。
 物語の要所に群舞を入れてにぎわいを演出した。ジュリ馬も壮観だったが、冊封使の要望で季節外れのジュリ馬を披露する筋書きは、やや強引に感じた。
 本公演を最初に企画した同劇場の幸喜良秀前芸術監督は「5年前はできなかった。今持っている総力を挙げ、10周年の節目に花を咲かせた」と評価した。
 劇の最後に朝薫が「子孫ぬ咲かする芸能ぬ花」を期待するところは、芸能関係者の継承・発展に向けた決意表明ともいえる。大きな花に育てるには、県民一人一人が「琉球芸能は世界に一つしかない財産」(幸喜)と再認識することが欠かせない。この機会に関心が高まることを期待したい。(伊佐尚記)

※注:城間徳太郎氏の「徳」は「心」の上に「一」
※注:高宮城実人氏の「高」は旧字体