若手、中堅の個性発揮 「大川敵討」大作3時間演じ切る


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乙樽(左、東江裕吉)と目が合いそうになり視線をそらす谷茶の按司(宇座仁一)=8日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわ10周年記念特別公演の第2弾となる組踊「大川敵討」(久手堅親雲上作)が8日、浦添市の同劇場であった。全編上演することがまれな約3時間の大作だが、大きなミスもなく演じ切った。主要な役に初役となる若手・中堅を抜てきし、人材育成の成果を見せた。統括・監修は宮城能鳳、地謡指導は城間徳太郎、立方指導は嘉手苅林一。演出は上地和夫。

 谷茶の按司(宇座仁一)は大川の按司を滅ぼし、若按司(古堅聖尚)を捕らえる。大川の按司の忠臣・村原の比屋(川満香多)は、若按司を取り戻して敵を討とうと計画する。村原の比屋の妻・乙樽(東江裕吉)は若按司の乳母だと偽り、谷茶城に単身乗り込む。
 第一場は音楽の聞きどころだ。歌の途中でせりふが入る箇所もあり、技量が問われるという。地謡は山城暁、新垣俊道、仲村逸夫、赤嶺和子、嘉数世勲、新城清弘、喜舎場盛勝。山道を逃げる乙樽の義母(石川直也)の心細さを歌う「子持節」が特に印象深かった。
 最も観客を引き付けたのは、乙樽が谷茶城に乗り込む第二場。切れ者の満名の子(名嘉山佑一)が乙樽を厳しく尋問したが、「もっと迫力が欲しい」との意見も聞かれた。
 東江は「殺しゆらば殺す(殺すなら殺せ)」と迫ったり、谷茶の按司を誘うように舞ったり緩急をつけた演技で引き付けた。10年前から美しい女・若衆役に定評があったが、安定感が増し、力強い目は士族のような気高さを感じさせた。
 宇座はせりふが円滑に出ずひやりとする場面もあったが、谷茶の按司の俗っぽい側面を表情豊かに演じた。乙樽を食い入るように見詰め、視線が合いそうになると慌てて目をそらし、客席から笑いが起きた。喜劇に出演した経験が生きているように思う。貫禄や強さが増せば、より深みが出てくるのではないか。
 間の者(まるむん)の泊(嘉手苅)は滑稽なしぐさとせりふ回しを見せたが「声が小さい」との指摘もあった。討ち入りでは、原国兄弟(佐辺良和、宮城茂雄)が息の合ったなぎなたの舞で引き締めた。
 東江は公演前、「次の10年に期待を抱かせる舞台にしたい」と話していた。その言葉通り、若手・中堅の力と個性が発揮された。もちろん課題もあるが、今後が楽しみだ。その他の立方は天願雄一、前當正雄、儀保政彦、岸本隼人、新垣悟、玉城匠、神谷清一ら。(伊佐尚記)

※注:城間徳太郎の「徳」は「心」の上に「一」