静寂の舞 研ぎ澄まされ 能「道成寺」30年ぶり


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 国立劇場おきなわ10周年記念公演の能「道成寺(どうじょうじ) 赤頭(あかがしら)」と狂言「呼声」が9日、浦添市の同劇場で上演された。「道成寺」は組踊「執心鐘入」に影響を与えたとされ、沖縄では30年ぶりに上演された。赤いかつらを用いる「赤頭」は特に位の高い演出だ。静寂の舞「乱拍子(らんびょうし)」など研ぎ澄まされた表現に、観客は息をのんだ。

 「呼声」は人間国宝の山本東次郎が太郎冠者を演じた。欠勤した太郎冠者を主人が訪ねるが、居留守を使われる。主人が「踊り節」に乗せて呼ぶと、太郎冠者もつられて踊り、楽しさが加速する。主人と顔を合わせても「る・す・で・ご・ざ・る」ととぼける太郎冠者が心をつかむ。
 30年前の「道成寺」は坂井音重がシテ(主役)の白拍子(しらびょうし)・蛇体を演じたが、今回は音重の長男音雅が演じた。坂井家は、音重の父音次郎の弟子が沖縄で謡曲の会を立ち上げ、長年沖縄と関わっている。
 物語の舞台は紀州道成寺。男に裏切られた女が、男が隠れた鐘を焼いたため、新しい鐘が造られた。そこに白拍子(舞姫)が現れ、鐘供養の舞を舞い、鐘の中に入る。白拍子の本性はよみがえった女の執念で、蛇体となり僧にあらがう。
 特に鮮烈だったのは白拍子が舞う「乱拍子」。長い間が続き、それを切り裂くように小鼓を打つ。シテはつま先を上げたり足を踏んだり最小限の動きで舞う。琉舞や組踊にも極限まで抑えた表現があるが、立方と地謡が寄り添う琉球芸能と違い、気をぶつけ合う。互いの間を確認しながら舞う乱拍子を、音重は「武道に通じる」と語る。白拍子は巫女(みこ)であり、神に舞をささげる意味もあるという。極度に洗練されながら原始的な雰囲気も持つ。
 緊迫の「乱拍子」から、思いが噴出するような激しい「急之舞」に転じる。白拍子が鐘の下に入ると、鐘後見が鐘を落とす。危険を伴う荒業だ。「執心鐘入」は装置で鐘を上下させるが、能は舞台上で人が鐘を操り、それが様になる。一方、組踊の良さにも気付かされた。「執心鐘入」は人間的な感情が豊かに表現されている。
 本公演は県内の芸能関係者に刺激を与えた。劇場は交流拠点の役割もある。音重も「琉球にいろんな文化が集約され、組踊が生まれた。アジアの中心で発信する意義は大きい」としており、交流の活発化に期待したい。(伊佐尚記)

鐘が上がり、蛇体が衣を脱いで姿を現す=9日、浦添市の国立劇場おきなわ
「乱拍子」を舞う白拍子