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<メディア時評・閣議公開の意味>政府の秘匿体質表す 情報公開へ法改正急務


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 先月4月から政府の閣議および閣僚懇談会の議事録公開が始まった。実施後約2週間で「首相官邸」ウエブサイト上で公表するという約束通り、5月の連休明け段階で4月15日までの5回分の議事録が掲載されている。これまで、政府の最高意思決定機関の記録がまったく残されてこなかったことを思うと、半歩前進と思いたいところではある。

しかしその実態を見ると、「悪(あ)しき前例」を作ってしまったのではないか、との思いが拭えない。それはまた、秘密法を作った政府の「文書管理」に関する認識の欠如がそのまま現れたものでもある。

「非公開」原則

 民主党政権の置き土産ともいえる閣議・閣僚懇談会の議事録公開であるが、当初は文書管理規程を変更するなど、何らかの法令上のルールにのっとり行われると思われていた。しかし結果は、あくまでまでも政府の行政サービスの1つとして、「特別に見せてあげる」という形での公開となっている。
 その象徴的な「公開」ルールが、「閣議等の議事録には、公表時点で情報公開法第5条の定める不開示事由に該当する内容については記録しない取扱いであること」という「非公開」原則だ。自民党政権が壊れ細川連立内閣が成立したことを受け、ようやく日の目を見た日本の情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)であるが、その5条には「不開示情報」と呼ばれる情報公開法の適用除外となる「例外」が列挙されている。この中身はおよそ世界共通で、個人情報、企業情報、意思決定過程情報、そして国家安全情報に公安情報の5カテゴリーだ(このほか、人事や検査などの行政事務遂行に支障がある場合も不開示の定めがある)。
 したがって、5条に該当するものは記録しないの意味は、政府が重要だと思う防衛情報や公安情報は、そもそもどのような話をしたのか(あるいはしなかったのか)、未来永劫(えいごう)、政府として開示する意思はないので、記録としても残さないということだ。この、政府が国民に見せるつもりがない文書は、最初から記録を取らないし、当然、議事録には掲載しない、という姿勢は秘密保護法立法過程でも出てきた話でもある。知る権利より国家安全保障が常に優先する、というかたくなな思い込みという形としてである。
 公的情報は国民のものである大原則を確認するまでもなく、行政機関の正式な会議は少なくとも、たとえ不開示文書になる可能性があってもすべて記録を作成するというのは、文書管理のイロハであるはずだ。にもかかわらず、その基本原則をまったく無視し、それをルール化してしまうことに、政府の情報秘匿体質が露呈しているということになる。情報公開請求があれば、裁判所が個別に開示するかどうかを判断する、というのが情報公開制度のルールである。それをまったく無視し、自分の都合に合わせてルール化するという態度は、その他の政府所有の情報の扱いを推し量るヒントになるともいえるだろう。

「残さない」選択

 そして実は、その伏線がすでに検討段階からあった。ここまで「議事録」と呼んできたが、正確には今回公表されているのは「議事要旨」に過(す)ぎない。その記録は、出席者である内閣官房副長官や内閣法制局長官などのメモをもとに作成するとされている。しかし、その作成の根拠となったメモの取り扱いなどについてはまったく不明であるし、そもそも録音をしているのか否かもはっきりしない(官房長官記者会見等によると、録音はしていないということになっている)。国家の最高意思決定機関で、国家の機微に触れるような重要な話は記録に残さないのが当たり前、という説明も一部でなされているようであるが、これは明らかに正しくない。
 アメリカで大統領の会話も電子メールもすべて記録されているのは有名な話であるし、ある意味で日本以上に行政秘密の壁が厚いイギリスでも、閣議の議事録作成に使用されたメモは、その議事録とともに保存・保管されることがルール化されている。そしてこのことを、政府は知っているうえであえて「残さない」という選択肢をとったのである。民主党時代にできた「閣議議事録等作成・公開制度検討チーム」における検討経過で、各国の閣議等の記録作成について海外調査が実施され、その報告がなされているからである。
 なお、2012年11月29日付の「閣僚会議等に関する調査結果の概要」では、174の閣僚会議等が存在し、その多くが議事録作成が可能と報告されている。実際、行政機関の会議のほとんどは、速記者が入るか録音をしつつ事務担当者が詳細発言メモを取っている実態がある。また、前述検討チームの報告書「閣僚会議等の議事録等の作成・公開について」では、すべての閣僚会議等に対し原則議事録の作成を求め、議事録を作成しないとする閣僚会議等に対しても議事要旨は作成するよう求めているのである。
 にもかかわらず、その種の会議体の中でも最重要と政府自身が位置付けている新組織「国家安全保障会議(日本版NSC)」は、13年の発足前から早々と記録を取らないし、いわんや議事録を作成・公表することもない、と断言し実行している。同会議は、設置法に基づきおかれているものであるにもかかわらず、そこで話し合われた内容は、未来永劫、国民の前に明らかになる可能性はゼロであるということになる。
 そしてこうした政府の振る舞いは、前述のように情報公開法の精神や趣旨に反するだけでなく、より明確に公文書管理法に違反するものであるといえる。なぜなら同法は、意思決定過程情報を合理的に跡付けるための文書を作成することや、相互に密接な関連を有する行政文書をまとめて保存することを、明確に条文で定めているからである。今回見られたような恣意(しい)的な政府の文書管理、あえて言えば秘匿のためのルール作りを認めさせないためには、早急に公文書管理法や行政文書管理ガイドラインを改正し、最低限、会議の記録が保管され、情報公開請求の対象となるようにすることが求められている。それは同時に、政府の隠蔽体質や恣意的な秘密指定を監視するため必要最低限の条件整備である。
(山田健太、専修大学教授・言論法)
(第2土曜掲載)