渡り鳥にかかる釣り糸・釣り針 ペット、野生動物も被害


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問われる沖縄のモラル

 「千キロも飛んで来て待っていたのが釣り糸だったなんて。申し訳ない気がする」。ことし4月15日、うるま市前原のNPO法人どうぶつたちの病院沖縄。理事長で獣医師の長嶺隆さんは、釣り糸が足に絡まったクロツラヘラサギの治療が済んだ後、そうつぶやいた。

 沖縄市の泡瀬干潟で、左足に釣り糸が絡まったクロツラヘラサギが保護された。糸が10回も巻き付いて皮膚は大きく腫れ、靱帯(じんたい)の一部を切るほどの傷だった。不自由な左足をかばった負担で右足の裏はたこができ、羽をばたつかせてバランスを取っていたため体力も消耗していた。
 希少な渡り鳥で環境省レッドデータブックの絶滅危惧種に指定されている。東アジアだけに生息し、ことし1月に実施された世界一斉調査によると、総個体数は2726羽で沖縄本島では36羽が確認された。冬は朝鮮半島や中国東部、ロシア南東部で繁殖し、越冬のため日本の九州や沖縄に飛来する。
 クロツラヘラサギの釣り糸・釣り針の被害は今回が初めてではない。水にくちばしを入れて左右に動かしながら魚を捕るため、水辺に残された糸に引っ掛かりやすい。2008年と12年に豊見城市の豊崎干潟で釣り糸がくちばしに絡まり、06年には同市与根の通称・三角池で釣り針が足に刺さって死んだ事例がある。
 被害はクロツラヘラサギだけにとどまらない。長嶺さんの元には、中城湾周辺で釣り糸・釣り針によるペットや野生動物の被害が02~14年4月末まで39件も寄せられている。餌が付いたまま放置された針に犬や猫が舌を刺すといった事例や、全長約18センチのシロチドリが自分より大きな仕掛けの付いた釣り糸をのみ込んだ被害が残っている。沖縄全域の被害統計はないが、広大な海で起きる事故のため「検出しにくい」(長嶺さん)という。
 県環境部の自然保護・緑化推進課は釣り糸・釣り針の被害に関し「規制よりも(マナー向上の)普及・啓発を行っていく」と説明。環境省那覇自然環境事務所の野生生物課も、被害防止に向けた対策を進めていく考えだ。
 沖縄野鳥の会の山城正邦会長は「干潟での釣りを制限してはどうか。仕掛けを捨てるのはやめて、沖縄の釣り人が世界に誇れる模範になってほしい」と呼び掛ける。貴重なクロツラヘラサギが飛来する地として、沖縄のモラルが問われている。
(金良孝矢)

左足に釣り糸が絡み、かばいながら歩くクロツラヘラサギ=4月11日、中城村
糸を外されて治療を受けるクロツラヘラサギ=4月15日、うるま市前原のNPO法人どうぶつたちの病院沖縄