初演上回る洗練舞台 新作組踊「聞得大君誕生」再演


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 歌舞伎女形の人間国宝・坂東玉三郎と沖縄の若手らが共演する新作組踊「聞得大君(ちふぃじん)誕生」(大城立裕作)が、5月22~25日に浦添市の国立劇場おきなわで再演された。同劇場の企画公演。

今回は玉三郎と同劇場の嘉数道彦芸術監督が演出した。音楽と振り付けも花城英樹、阿嘉修、新垣悟ら若手を起用し、昨年3月の初演より練り上げた舞台を見せた。監修は織田紘二、宮城能鳳、西江喜春。詞章考証は波照間永吉。創作舞踊「蓬莱島」も初披露された。6月に京都公演もある。(伊佐尚記)

 「聞得大君誕生」は初演でチケット争奪戦が起こり、再演を求める声に応えた。今回のチケットは抽選で2倍強の応募があった。
 尚真王(玉城盛義)の妹・音智殿茂金(うとぅちとぅぬむいがに)(玉三郎)が、下級士族の伊敷里之子(いしちさとぅぬし)(川満香多)と身分違いの恋に落ちる。しかし伊敷は、やんばるでノロとユタの争いを治めるよう王に命じられ、命を落とす。失意の音智は王の命を受け、各地のノロをまとめ国の安泰を祈る聞得大君となる。
 初演との大きな違いは、ユタとノロの戦いだ。初演では武器を持ったが、今回は両手を合わせ祈る姿勢を保った。振りと唱えの掛け合いで精神的な戦いを表現し、宗教的雰囲気や品格、緊迫感が増した。作者の大城も「うまく表現し迫力が増した」と評価した。
 また、初演では三良(さんらー)(宇座仁一)とユタのナビーが間の者(まるむん)的な役割を担ったが、今回は三良だけで古典に近くなった。それでも一人芝居を入れるなど古典より自由に表現した。前回、嘉数がユーモラスに演じたナビーは親泊久玄に代わり、厳かな役柄となった。
 玉三郎は強い存在感を放った。初日は喉の調子が悪いように聞こえたが、最終日は改善された。唱えや所作は少し硬い時もあったが、初演より良くなったとの意見もあった。踊る時に後ろ姿や体の使い方に艶(つや)があり、歌舞伎の美がにじみ出た。
 歌三線は花城、玉城和樹、與那國太介、岸本隼人、平良大。箏は池間北斗、笛は横目大哉、胡弓は高宮城実人、太鼓は横目大通。前回も出演した花城と玉城を中心に表現豊かな歌を聞かせた。普段は引き立て役の胡弓が哀愁漂う旋律を独奏し、悲劇を予感させる重要な役割を担った。その他の立方は阿嘉、新垣、平田智之、天願雄一、金城真次、玉城匠、石川直也、宮城茂雄、田口博章。

※注:高宮城実人の「高」は旧漢字