「組踊 伏山敵討」実演家ら洗練舞台 若手・中堅も成長


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天願の按司一行と対決する棚原の若按司(右端、田口博章)と富盛大主(右から2人目、親泊久玄)=8月24日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわの組踊公演「伏山敵討」が8月24日、浦添市の同劇場で上演された。昨年上演された本部町瀬底の「伏山敵討」は村芝居独特の演出が興味深かったが、今回は実演家による洗練された舞台が楽しめた。実演家による上演は2005年、10年にもあり、当時は主役級の富盛大主と天願の按司はベテランが演じた。今回は若手・中堅を起用し、成長を印象付けた。

 解説を務めた大城學氏によると、「伏山敵討」は村踊りでは最も多くの地域で上演されている組踊という。冊封使に披露する御冠船芸能での上演記録は見当たらない。作者不明。
 今回の立方指導は親泊興照、地謡指導は照喜名朝一。粗筋は棚原の按司が天願の按司(川満香多)に滅ぼされる。棚原の若按司(田口博章)は本部山に潜んでいた家臣の富盛大主(親泊久玄)と協力し、敵を討つ。
 久玄は力強い唱えや立ち回りで富盛の豪傑ぶりを表現した。演目名の由来でもある「野に伏し山に伏し、哀れてる哀れ いちも尽くさらぬ(野に隠れ山に隠れて、哀れという哀れは言葉では言い尽くせない)」という唱えは無念さが伝わってきた。久玄は化粧をすると父であり師匠である興照によく似ている。興照の貫禄ある芸が受け継がれていくことを期待したい。
 川満は「二童敵討」のあまおへ(阿麻和利)を思わせる演技で天願の按司の荒々しさを表現した。田口は若按司をりりしく演じた。天願の按司について語る唱えは力を込め、めりはりを利かせた。本部山で天願が狩人(親川良信)から富盛大主が待ち伏せていることを聞く場面は、ユーモラスな狩人の演技が笑いを誘った。
 歌三線は照喜名進、照喜名朝國、岸本隼人。箏は名嘉ヨシ子、笛は宇保朝輝、胡弓は與那國太介、太鼓は與那覇徹。若按司が敵討ちに向かうため母(海勢頭あける)や亀千代(上原信次)と別れる場面は、「伊野波節」を3人で歌い継いだ。若按司のイメージに合う声と年齢を重ねた味のある声が、親子それぞれの思いを想起させた。一部の演奏が滑らかでなかったのは惜しまれた。
 その他の立方は前當正雄、山入端實ら。
(伊佐尚記)