“ショパンのバイオリン曲”がCDで現実に


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バラードやワルツ、ノクターンなどを集めたCD『ヴァイオリニストたちが愛したショパン』

1世紀ぶりに光が当てられたイザイの編曲も
 アメリカンフットボールの話を始めると、逃げ出す人が多いので、控えめにしているが、この人の名前だけは覚えておいてほしい。
 J・J・ワット。
 米国のプロリーグNFLに入って4年目。テキサンズという球団の、というよりリーグきっての人気者だ。

守備チームで働き、その最前線・守備ラインの端に構える。相手司令塔のQB(クオーターバック)を押し倒すかと思えば、彼が投げたボールをジャンプして至近距離ではたき落とす…とここまでは、まあ他の選手もする。それが仕事だから。この若者の場合、はたき落とすだけでなく、ほぼ目の前で両手でボールを取ってしまう、つまりインターセプトしてしまうことがあるのだ。野球のピッチャーが投げる球を2メートルほどの近さでキャッチするようなもの。ぞーっとするようなシーンだ。
 これだけの才能、もっとほかのポジションでも見てみたいと思っていると、考えることは誰しも同じ、時折攻撃チームのメンバーとして出てくることもある。いやいやもっと他の競技でも見てみたい。大相撲だったらきっと横綱も狙えるはず。
 同じように、一流のアスリートなら、結構何をやっても一流なのではないだろうか。だったら、サッカーで走り回るイチローを見てみたいし、フィギュアスケートでジャンプをする内村航平を見てみたい。5回転でも6回転でもできるんじゃないだろうか、しかも宙返りとか入れて。
 もちろん、こんな楽しい想像はスポーツ界にとどまらない。
 クラシック音楽で、ほかの分野で頑張ってほしかった人の一人がショパン。この作曲家は、ピアノの詩人と呼ばれるように、ほとんどの作品がピアノ独奏曲。どうしてほかの楽器に興味がなかったんだろう。あれだけの量の名曲を生み出した人だ。バイオリンやチェロやフルートでもさぞ素晴らしい曲を書いたに違いない。それを聴いてみたかったものだ。
 ショパンは、それを残さなかったが、その望みをかなえてくれるCDが発売された。タイトルも『ヴァイオリニストたちが愛したショパン』(フォンテック)。ショパンの名曲を、別の作曲家らがバイオリンとピアノの二重奏用に編曲したものを集めている。
 中でも目玉は、伝説のバイオリニスト、イザイの編曲。バッハの向こうを張って作曲した6曲の「無伴奏バイオリンソナタ」でも有名だが、その彼がアレンジした「バラード第1番」。
 この曲は、イザイの自筆楽譜が米議会図書館に保存されているのを、ピアニストの永田郁代がコピーで入手、今年、編曲から実に1世紀ぶりに出版して話題になった曲だ。
 これを聴いてみた。バイオリンの演奏はN響のソロ・コンサートマスターなどを経て、活動の幅を広げている徳永二男。ピアノ演奏は、この曲に世界で初めて光を当てた永田。聴き慣れたフレーズはそのままに、しかしそこは旋律の楽器、情感の楽器。たっぷりと胸を揺さぶってくれる。10分ほどの長さなのに、大きなドラマを見せてもらったような満足感も。
 想像はしてみるもの。ショパンのバイオリン曲が思いがけず現実のものとなってしまった。それでは、ひょっとしてJ・J・ワット君の角界入りも? さすがにそれは…。(エンタメ編集デスク・小松美知雄)
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小松美知雄のプロフィル
 こまつ・みちお 共同通信に約40年。芸能記者時代の記憶に残る楽しいインタビューは、アン・ルイスさん、浅野温子さん、ジュリー・アンドリュースさんがベスト3。2009年からエンタメ編集デスク。好きな言葉は「様子を見よう」。つまり判断の先送り? まあ、いいじゃない、様子を見てみましょう。水戸黄門じゃないけど。
(共同通信)

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