『音とことばの実験室』 言語や音楽のしくみに迫る


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音とことばの実験室『音とことばの実験室』高良富夫著 琉球新報社・800円+税

音とことばの実験室

 「音とことばの実験室」は、著者の長年の研究を通して得られた知見に基づいて、音とことばのしくみを説き明かしたショートコラム集である。「はじめに」もあるように、琉球新報に掲載したものを基にまとめられた本で、中学生でも読めるようにやさしく工夫されている。

 本書は「音と話しことば」(10話)、「琉球のことば」(6話)、「人間と言語」(8話)の3部で構成されており、それぞれの最後の部分には用語解説もつけられ理解が深まるように構成されている。時々、著者の研究室で開発されたシステムなどの話も出てくるが、琉球ことばに関するものは特に貴重な研究である。
 1部「音と話しことば」では、音をさまざまな観点から説明している。機械が捉える物理的な音と、人間が聞く心理的な音との違いの不思議について述べている。2部「琉球のことば」は、著者の出身地である琉球ことばについて述べているが、日本語の母音が「あいうえお」であるのに対して、琉球語は「あいう」の三つであることが第13話に書かれている。琉球音階が7音階ではなく、5音階であることも考えると興味深い話である。3部「人間と言語」では、人間と動物の違いは言語とその処理能力にあることを示す話題があり、人間のクイズ王に勝利したIBM社の言語情報処理システム「ワトソン」についても述べられている。
 日本では、国立情報学研究所のプロジェクトで東大入試を目指している人工知能「東ロボ君」が、今秋の模試を受験して偏差値47点だったが、人工知能が、答えの分からない未知問題の解決能力を持つ人間に追い付けるかという問い掛けもある。
 本書は手軽に読めるので、多くの方々に教養として読んでいただきたい。また、若い方々や中高生が音声や言語だけでなく、琉球ことばや琉球音楽など、日本各地に残るお国ことばや地方の音楽にも関心を寄せる一助となってほしい。
 (北村正・名古屋工業大学大学院情報工学専攻教授)
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 たから・とみお 1976年、鹿児島大学理学部物理学科卒。83年、東京工業大学大学院博士課程修了(工学博士)。95年、琉球大学工学部情報工学科教授。2011年、琉球大学工学部長。