戦没者遺骨、焼骨せず保管 県が方針転換


社会
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 沖縄戦の戦没者遺骨について焼骨方針を示していた県は、当面は焼骨せずに全ての遺骨を保管する方針を決めた。遺骨はいったん焼骨すると、遺族を特定するためのDNA鑑定が困難になる。

このため遺骨収集ボランティア団体などから焼骨せずに保存するよう求める声が出ており、県議会は昨年7月に保管を求める決議を全会一致で可決していた。県に焼骨事業を委託している国も県の保管方針を了承している。国が遺骨のDNAをデータベース化する方針を示していることもあり、焼骨をいったん停止し、遺族特定のために保管する方針に転換した。
 県は国からの委託を受け、焼骨事業を進めてきた。しかしDNA鑑定を求める声を受けて2013年度に焼骨を停止した。14年4月に保留措置を解除し、焼骨を再開する方針だった。しかし再開方針が明らかになった後、保管を求める声が県内で高まり、県は同年6月、国に対して当面の焼骨を停止する意向を伝えた。現在まで焼骨作業は実施されていない。
 その後、停止を続けると糸満市摩文仁の遺骨仮安置室が満杯状態となる懸念もあることから、県は遺骨仮安置室の新たな確保の検討を始め、ことしに入って増設した場合の費用を試算した。その結果、別の施設を借り受けることで、年間約20万円で現在の仮安置室と同規模の収容能力を確保できることが判明した。国からの年間約1300万円の委託費で十分賄える計算だ。
 さらに国が5月13日、身元が特定されていない戦没者の遺骨からDNAを採取し、データベース化する方針を表明した。菅義偉官房長官は「遺留品がなくても、ある程度戦没者が特定できる場合は、関係と思われるご遺族へのDNA鑑定の呼び掛けを行い、ご遺体の身元を特定し、ご遺族の気持ちに応えるというのが政府の役割だ」と述べ、遺品の存在が義務付けられている現行のDNA鑑定条件を緩和する方針も示した。
 こうしたことから県平和援護・男女参画課は「国の方針もあり、焼骨再開はできる状況にない」との立場を示した。厚生労働省も「再開するか、しないかは県の判断だ」と説明しており、県の意向を尊重する考えだ。
 同課によるとことし3月末現在で県内には3015柱の遺骨が眠っていると推計されている。厚労省によると、県内の収集数は昨年度、194柱あった。県内では03年度からこれまで50件のDNA鑑定が行われ、県外出身の日本兵4人の特定につながった。(中里顕)