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<メディア時評・審議法案の違憲性>表現の自由 認識欠く 危うい法律、国会で続々


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 開催中の第189回国会では、これまでに100を超える法案が提出されている。そして今国会の特徴が、一括法案と呼ばれる、いくつかの法案をまとめて一つにして提出する形態が目立つことだ。二つ以上の法律を羅列する場合のほか、一般に法案名が「…等に関する(等の一部を改正する)法律案」となっている。これは、同様の議論を省略することができるなど、審議時間の短縮につながるとして重宝されている手法ではあるが、今国会の閣法(内閣が閣議決定を経て提出する法案)の場合、半分近くがこの種の法案である。

 現政権のメディア戦略には、巧みなネーミングによるイメージ戦略と、個別社対応による大手メディア向け情報コントロール、官邸フェイスブックによる発信といった積極的なネット対応が挙げられる。具体的には、「積極的平和主義」「平和安全法」など、違憲との指摘が強い集団的自衛権行使の閣議決定や法案に、あえて絶対的な善である〈平和〉の文字を組み込むことや、タイミングを見計らった社別の単独首相インタビューがあたる。
 そしてこうした「攻め」と裏腹に、法改正に関して正面からの議論を避けたり説明責任を尽くしていないとの批判が続いている。国会での長舌な首相答弁や質問者に対する野次(やじ)もその表れの一つともいえようが、初代の国家安全保障担当首相補佐官である磯崎陽輔自民党議員も、安保法制に関するやり取りが続いたツイッターを、一時「ブロック」(書き込み拒否)してネット上では話題になった。
 その並びとして、法案名称による本質隠しがあり、安保法制の一つである「自衛隊法等の一部改正」の中に、PKO法の抜本的な変更も入っているし、周辺事態対処法は名称も改め装い新たに生まれ変わらせる中身だ。そして同じことは他の法案についても言うことができる。

マイナンバー
 一つは、「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律案」で、ビックデータと呼ばれる個人情報の利活用を促進するためと、金融・医療分野での共通番号(マイナンバー)の利用を可能にするものである。すでに衆議院は通過し、参議院審議中に、年金情報流出事件が発生したため、ほとぼりがさめるのを待っている状態だ。
 改正は、経済界の強い意向に沿ったものになっているが、実質的にプライバシー保護の切り下げにつながる可能性が高い。かつては、個人情報の相互利用をするための最低限の使用者ルールとして形式的な保護法制が存在した。それを、自己情報コントロール権の思想を踏まえた制度に変えたにもかかわらず、わずか10年余りでその発展過程を水泡に帰しかねない危うさを孕(はら)んでいるからだ。
 マイナンバーも、運用前から早速に対象範囲の拡大が図られ、民間のデータベースに広範に接続されることになる。しかも、使われている本人が、必ずしもそれを把握しきれないことも予想されるほか、いったん漏洩(ろうえい)した場合には、個人として十分な対抗策を持ち得ない状況にある。なぜなら、個人情報を保有する政府や企業に保護義務を負わせるものの、個々の市民が主体的に自らのプライバシーを主張するような仕組みになっていないからである。

盗聴法抜本改正
 そしてもう一つが、先月下旬から実質審議が始まった「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」で、この中には盗聴法(通信傍受法)の抜本改正が含まれている。日本は憲法で「通信の秘密」を謳(うた)い、明示的に盗聴を禁止する珍しい国である。そのため同法の成立時には、憲法に抵触しないような工夫と歯止めが作られた。それが、盗聴してよい通話の捜査対象犯罪を4類型に限定する、民間人(一般には電話会社職員)を立ち会わせる、盗聴結果を国会に報告するなどというものだ。これら厳しい要件によって、盗聴件数は年間20件程度に抑えられてきたといえようが、こうした「使いづらさ」を解消するために、要件を一気に拡大することで、事実上、傍受対象を無制約に広げることになる。
 たとえば、拡大対象には定義が曖昧だとして問題視されている子どもポルノも入ることになり、不特定多数への提供ということから出版編集者や漫画家、さらには印刷・運搬・販売関係者も広く対象となる可能性がある。そうなると、改正は当初の法の趣旨を変更するばかりか、憲法体系に反するものになってしまうだろう。しかも、捜査の必要性という観点で対象を拡大する今回の法改正は、近い将来、共謀罪が新設されれば、その対象犯罪は数百種類と想定されていることから、まさにほぼすべての犯罪が対象となる。
 それ以前にも、テロ捜査に必要と言われれば、対象に含めることに強い異論は出されないだろう。その結果、一般市民活動はほぼすべて傍受対象となり、まさに米国で問題となったテロ予防目的での日常的な監視活動を可能とする、「行政盗聴」が実現することになる。

放送の監視
 最後にもう一つ、法案作りが進んでいる放送アーカイブ構想について触れておきたい(本欄12年6月9日付参照)。放送番組についても、国立国会図書館がきちんと収集・保管・公開していこうというものだが、3月4日に開催された参議院自民党・政策審議会では、沖縄選出の島尻安伊子議員がこう発言したと伝えられている。「選挙では、私の地元のメディアは片寄っていた。あのとき、どうであったかをサーベイするのは大事なことだ」
 すなわち、放送局に対しプレッシャーをかける材料を、国が収集するという仕組みを作るということになる。しかもその調査は、国家機関である図書館の専門職員が担うことになる。こうしたメディア観、表現の自由の認識を持った議員で構成される国会で、前述のような表現の自由関連の法案が審議されていることを知っておく必要がある。
(山田健太、専修大学教授・言論法)
(第2土曜日掲載)