故中沢啓治さん「オキナワ」再出版へ 島の不条理描く


社会
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 広島原爆の体験を基にした漫画「はだしのゲン」の作者として知られる漫画家の故中沢啓治さん(2012年に73歳で死去)が、日本復帰前に沖縄の基地問題などを描いた作品「オキナワ」が被爆70年に合わせて新装出版される。垣内出版(東京都世田谷区)が現在、編集作業を進めており、ほかの沖縄関連作品とともに収録して8月にも発売を予定している。

 「オキナワ」は、沖縄戦経験者の両親を持つ青年が、沖縄の伝統行事である闘牛を通じてたくましく成長するストーリー。ベトナム戦争中という時代背景で、米兵犯罪の不条理や騒音問題が描かれている。沖縄戦時の日本兵による壕追い出しやB52戦略爆撃機の爆発炎上事故(1968年)といった史実も盛り込まれている。
 中沢さんの自伝によると、作品は「ゲン」が週刊少年ジャンプに連載される3年前の70年に発表された。中沢さんは68年に原爆を題材にした「黒い雨にうたれて」を発表したことをきっかけに戦争を題材にした漫画を描き始めたため「オキナワ」は数多い中沢さんの戦争作品の中でもごく初期のものになる。
 垣内出版などによると、同作品は現在も大半が図書館向けを中心に流通しているが、今回、垣内出版が被爆70年に合わせて一般書店向けに新装出版することにした。
 中沢さんは生前、原爆を投下した米国に対する怒りを繰り返し口にしていた。妻ミサヨさん(72)によると、中沢さんは「沖縄の人たちの気持ちを知りたい」と編集者と共に返還前の沖縄を訪れ、飲食店の店主ら地元住民の取材を重ねたという。「ゲン」の執筆の傍ら「『オキナワ』でもっと描きたいことがあったんだよな」と漏らしていた。
 新装出版では、沖縄戦での日本兵の住民虐殺を題材にした「うじ虫の歌」と「冥土からの招待」など4作も収録。ミサヨさんは「広島の被爆者と同じように、沖縄の人たちが戦争に苦しめられていると主人は感じていたのではないか」とし、「作品が沖縄と広島の心をつなぐことに役立ってほしい」と期待していた。
 問い合わせは垣内出版(電話)03(3428)7623。(中里顕)