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<メディア時評・世論調査の意味>感情訴える道具にも 試される読むリテラシー


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「内閣支持率が危険水域に近づく」「安保法案で反対上回る」―最近の紙面によく出てくるフレーズだ。これらは報道機関各社が実施する「世論調査」の数字を指している。よく似たものに、市場調査があるが、最初から会社イメージの向上、商品の販売という最終ゴールが明確といった点で異なる。なぜなら、世論調査は客観性をもった統計的社会調査でなくてはならないからだ。

では実際に、結論を予想することなく、純粋に真っ白の紙の上に地図を描く作業になっているか。

3つの方法
 現在、新聞社や放送局が実施する世論調査の方法には大きく3つある。1つは、無作為に抽出した人を実際に家まで訪問して、回答票を渡し、あとで回収するという方法だ。調査項目が多い場合など、回答にある程度の時間を要する調査は、この方法を採ることが一般的だ。夜間や休日に訪問するなどの工夫はするものの限界はあり、性別や年齢で回答者数を充足させていった場合、どうしても勤め人や学生を捕捉することは困難な状況にある。あるいは、特に都市部ではオートロックマンションが増え、門前払いされることが少なくないとされる。多大なコストと時間をかける調査法にもかかわらず、その対象に偏りが出ることが否めないということだ。
 2つ目は、よく緊急調査といった名目で行われる電話調査だ。今回の安保関連調査も、多くはこの方法が採用されている。それはまさに、「いま」の世情を知るためには、すぐ実施してすぐ結果を得る必要があるからだ。こちらも無作為で抽出した電話番号に順番に電話をし、人口比等によって最初に決められた階層分布になるまでかけ続けるという、根気がいる調査である。ここでも、携帯電話が生活ツールとして一般化する状況と、固定電話にのみ電話をするという手法とのギャップが問題になっている。固定電話を自宅に有している人が限定的で、社会層からしても偏っているのではないか、ということだ。しかも回答者が本人かどうか確認する術はない、という問題も残る。
 そして3つ目は、固定モニターによる調査だ。もちろん、一定数ごとに変えていくことが一般的だが、安定的確実に調査の実施ができる一方、モニター数や階層の限界から、社会全体の反映になっているかどうかは、見極めが必要だ。このように、「民意の反映」の手段としての世論調査には、その調査方法の段階において、回答層に偏りが生じる可能性があることを知っておく必要がある。
 そして、これ以上に大きな変動要因が、質問設定によって回答が変わってくることだ。具体的には、質問項目の立て方と、質問の仕方の問題だ。

誘導質問
 一番単純な質問は、賛否を2択で聞く方法だが、実際は、「どちらかといえば」という中間層や、「わからない」という回答項目を作ることが少なくない。しかし実際はそれがいわば逃げ道となって、明確な回答傾向がつかめないこともある。逆の見方をすれば、日本人の傾向として、はっきり主張しない、あるいは中庸を好むという性向があるといわれており、こうした中間層や回答保留層が多いことこそが、明確な傾向といえるかもしれない。
 そうしたなかで、ある事項への賛否を聞く際に、中間回答を1つ入れると、そこへの回答が増えるということが一般に想定されている。そこで質問の際に、「賛成」「どちらかといえば賛成」「反対」と、「賛成」「反対」では、同じ人に質問したとしても、前者の方が「合わせて賛成」数が増えるという結果が生じやすいのである。集団的自衛権の行使容認を問う際にもこの手法が一部で採用されており、賛成を増やすためではないか、との穿(うが)った見方がなされた。
 もう1つは、質問方法に「誘導」があるかどうかだ。通常、唐突に質問をしても、回答者が何のことかわからず、回答ができないということが起きやすいため、簡単な「説明」を行うことが一般的だ。たとえば、いまからお聞きする法案は、こういった内容のものです、といったことだ。しかし実際はその際に、回答を誘導しかねない説明が加わることが少なくない。たとえば、「現在、中国からの脅威が高まり軍備増強が必要との専門家の指摘がありますが」と「多くの憲法学者から違憲との指摘がなされていますが」という前振りがあった場合、どちらの場合にどのような回答が増えるかは、容易に想像がつくだろう。今回の安保法案質問でも、この手法が利用されている。

縦と横の比較
 それでもこうした世論調査には大きな意味がある。それは、それぞれのイシューに市民がどのように考えているかを考える有力な指標であることには違いないからだ。とりわけ小選挙区制度導入以来、選挙が民意の「反映」より「集約」となり、かならずしも議会の議席数が世論と一致するとは限らない状況が続いているからだ。さらには、継続的な調査を歴史軸で縦比較することで、経年変化を知る有力な手がかりにもなる。その意味では、社の「思想」が調査法にあらわれやすい、他社調査との横比較は、世論動向よりもむしろその社の考え方を知るには良い材料だといえよう。
 一方で、世論調査の使い方として、出てきた数字をもって政権批判にストレートに利用することには注意が必要だ。近いところでは民主党政権時代には、「世論調査民主主義」と揶揄(やゆ)されたように、世論調査結果をもって政権に信任がないと断じ、さらにそれがマイナスイメージを増幅させるといった循環を生んだとされているからだ。本来は客観的なデータのはずが、感情に訴える道具になると、真っ当な政策評価を片隅に追いやってしまう可能性がある。むしろもう一歩踏み込み、県内の世論調査でも、安倍政権支持が一定数あるにもかかわらず辺野古新基地建設反対が圧倒的であるといった、数字に表れる県民の「強い意志」をどう読み取るかが大切だ。
 このように、世論調査はそれを使う側とともに、読む側のリテラシーが試されている。
(山田健太、専修大学教授・言論法)