<メディア時評・少年法と事件報道>適用年齢下げ影響か 規制強化させない矜持を

 6月の公職選挙法の改正で選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた。その際、民法や少年法にも「必要な法制上の措置」を求めたため、少年法の適用年齢を現行の20歳未満から引き下げることを前提に検討が進んでいる。自民党内では、18歳に引き下げたうえで、18~19歳には特例で現行のような保護策を設ける案も検討されていると伝えられる。一方で、凶悪な少年事件への対応という名目で、刑事処分が可能になる年齢を16歳以上から2歳引き下げるなどの、厳罰化の流れもある。

 そうしたなかで、少年法の保護対象自体を18歳未満にすることが、報道との関係でどのような影響を与えることになるか。

推知報道の禁止
 少年法61条は推知報道の禁止を定めており、具体的には加害少年の氏名・年齢・顔写真・学校名・住所など、本人の特定に結びつく情報を報道することを禁じている。ただし、これに違反した場合の罰則はなく、事実上の慣例的な「例外」のほか、時に報道機関が確信的に実名・顔写真報道を行うことで、社会的な話題になることも少なくない。
 最近では、2月の神奈川県多摩川河川敷のリンチ殺人事件で、主犯格とされる少年を週刊新潮が実名報道したほか、インターネット上では晒(さら)しと称されるプライバシー暴きが横行している。しかも社会的な反応は、こうした実名公表に必ずしも否定的ではない状況だ。

変更求める空気
 歴史をさかのぼると、1922年制定の旧少年法は、適用年齢の上限が18歳未満だった。48年に現行法が定められ、その後の改正を経て現在では、20歳以上が大人として「刑事処分」の対象となり、公開法廷で裁判が行われるのに対し、14歳以上20歳未満はすべての事件を家裁に送致するが、教育的配慮や更生機会の確保などから「保護処分」の対象で、裁判ではなく非公開の審判が行われる。なお、14歳未満は児童相談所に通告され、刑事責任を問われることはない。
 ただし16歳以上で故意に人を死なせた場合は、原則として逆送(検察に送致)され、大人と同じ刑事手続きを踏むことになっている。今回、適用年齢が引き下げられると、18~19歳は大人と同じ扱いを受けることとなり、公開裁判で裁かれ、刑務所に収監される。事件件数として18~19歳が半数近いため、少年事件の扱いが実質的に大きく変わることになるといえる。
 このように、従来より、加害者が少年であることを理由に成人とは異なる手続きで保護してきたわけであるが、被害者からみれば応報として刑罰を科すことを求める声が強く、また社会もそれを容認する空気が強まっている。そしてこれが、推知報道の変更を求める声を後押ししているといえるだろう。

例外と規定撤廃論
 旧少年法にも現行と同様の報道禁止規定があり、しかも禁錮刑という重い罰則がついていた(74条)。それが戦後、憲法の表現の自由規定が法による例外(法律による留保)を認めなかったため、削除された経緯がある。いわば、治安維持法等の言論規制立法がなくなったのと同じ理屈である。それでも、表現の自由の例外的禁止規定であることには違いなく、規定撤廃論があることも事実だ。
 一方で報道界は58年に、法務省との話し合いの結果として例外基準を発表している。逃走中で累犯が予想される場合などを挙げ、法を破ることを明文化して示している珍しい事例といえるだろう。
 さらに近年では、死刑の確定・執行時には公権力の権力行使を監視するという名目で、実名報道に切り替えることをルール化する新聞・放送局も多い。そうしたなかで、少年が逆送されたような事案は実名報道が当然、という空気があるということだ。

実名報道させない権利
 ではいったい、推知報道の禁止をめぐる論点にはどのようなものがあるのか。まず「少年の名誉権」という観点からみよう。事件報道一般の場合は、刑法の名誉毀損(きそん)罪の免責要件として真実性や公益・公共性が挙げられていて、逮捕段階での実名報道が許容されている。にもかかわらず、少年事件では少年法に基づく非公表性が優先されるわけだが、少年にはなぜ一律に免責法理が適用されないのかということだ。もう一つは「少年のプライバシー権」で、刑事裁判・少年審判の公共性と少年の私事性が衝突した場合、少年事件ではなぜ私事性が絶対的に優先されるのかという点だ。
 さらには「少年の成長発達権」が主張される場合があり、子どもの権利条約や憲法規定から導き出されるとする成長発達権(学習権)が、表現の自由とぶつかる場合に前者を優先させようというものだ。そしてこれらから、実名報道されないことの権利性を有するのかが議論されてきた。
 一方で、マスメディアの報道には、少年事件以外にも「報じない」事例が少なくない。皇室関連や自衛隊では報道協定によって報道を控えることを行政機関との間で約束することがあるし、もっと身近なところでは誘拐事件の場合は警察との間で取材・報道の一切を一時的に控えることがなされる。
 そのほか、性的犯罪被害者や被疑者が精神障害者の疑いがある場合も原則匿名だ。いわば、刑事責任能力、生命の安全・生活の安定、更生・社会復帰、公安・社会秩序(捜査上の便宜)、国家的利益など、広範な目的のもと匿名報道はなされている現実がある。

例外一般化の危険
 そうしたなかで少年事件に関しては、(1)社会の正当な関心事であり、表現内容・方法が不当なものでない場合、(2)明らかに社会的利益の擁護が強く優先されるなどの特段の事情が存する場合、(3)18歳以上の少年で、外形的に成人犯罪と実質的な相違がみられないと合理的に判断される場合、(4)すでに広く実名等が流布されており、推知情報を秘匿する実質的な価値が失われた場合、(5)被害者に関する報道と著しい情報の相違があり、その不均衡が社会的に是認できない場合などにおいて、「例外」的に実名が許されるのではないかとの主張がなされてきている。
 しかし、これらの基準がルール化されると、その例外が一般化する可能性がある。そして今回の少年法の適用年齢引き下げが、その一般化の流れを加速させる危険性が拭えない。
 少年審判の部分的な情報開示など、少年事件の厚いベールをあけるなどの工夫によって、誤った「少年は過剰に守られている感」を拭う努力も必要だろう。しかし、罰則の復活などの表現規制の強化につながらないためにも、少年が未熟な存在であるという基本を忘れることなく、報道界が矜持(きょうじ)を示し続けることが大切だ。
(山田健太 専修大学教授・言論法)



関連するニュース







  • お知らせ


  • 琉球新報デジタルサービス



  • 会員制サービス






  • 他のサービス