【島人の目】仲宗根雅則/ピストル天国


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 イタリアでは毎年9月末、ミラノで華やかにファッションショーが開かれるころ、狩猟が解禁になる。そこから年末までは国中の山や森、原野に「パン、パン」という猟銃の発射音が響き渡る。ここではきちんと登録をすれば猟銃も拳銃も割と簡単に手に入る。昔から火器技術の発達した国だからごく自然だし、違和感もない。銃の有名ブランドである「ベレッタ」もイタリアのものである。アメリカほどではないが、自衛のために拳銃を所持する者はイタリアでも結構多いし、狩猟も盛んだ。
 先日、こんな“事件”が起きた。拳銃を上着のポケットに入れたまま忘れていた男が、ミラノの空港の金属探知機をすり抜けて通った。彼は飛行機に乗ってから拳銃に気付き、スチュワーデスにそれを預けようとした。銃は合法的に取得、登録されたものだったが、だからといって機内に持ち込んで良いというものではない。男の武器を見て乗客が騒いだ。
 テロ対策でイタリア中の空港がピリピリしている。重要な文化遺産に満ちあふれたこの国は、テロ組織から名指しで脅迫を受け続けているのだ。
 すぐに手荷物検査のずさんさが糾弾され、安全対策本部のボスの首が飛んだ。これではテロの恐怖に対応できないという訳である。
 でも本当に怖いのは、いいかげんな検査もさることながら、ピストルを上着のポケットに入れてすっかり忘れてしまうような人間がいる事実だと僕は思う。それは男のエピソードが氷山の一角にすぎず、イタリア社会には拳銃などの多くの武器がひそかにまん延していることの証しにほかならないからである。
(イタリア在住・TVディレテクター)