三線工55年目の挑戦
うるま市赤道で又吉三味線店を営む三線工・又吉章盛(あきもり)さん(82)。三線の基本七型を全て作ることのできる数少ない三線工であり、昨年、三線工として初となる「現代の名工」を受賞した。又吉さんと、三線製作の弟子であり「現代の名工」推薦者として尽力した松田茂(しげる)さんに話を聞いた。
1941年、うるま市(旧具志川市)出身の又吉さん。物心ついたときから三線に興味があり、近所の家が三線の名器を手に入れたと知ると、単身訪ねて見せてもらうような子どもだったという。蛇皮の代わりにパラシュートを使うなど工夫して、カンカラ三線を作っているうちに腕前は上達し、中学生の頃には一人で自作するようになる。
職人の道に飛び込んだのは20代後半。名工・喜屋武盛朝氏の一番弟子である稲福具永氏に弟子入り。技術の習得に励んだ。その後、稲福氏の勧めで三線の名工が集まる那覇市開南に拠点を移し、各型の名工の元で修行。9年をかけ、真壁型(マカビ)、与那型(ユナー)など三線の基本七型を習得した。
三線への思い
「三線は工芸美も大事だけど、なにより音が命」と話す又吉さん。又吉さんの三線には「ユイン(音韻)」と呼ばれる三線特有のエコーがかかる。それを可能にしたのが、棹と太鼓(胴)の独自技法。太鼓の密着部である「爪裏」の隙間をなくし、音の伝達力を上げている。太鼓の張りには、沖縄の三線作りに古くから使われている天然デンプン糊を使用することで、蛇皮の強い張りを実現。音をより美しく響かせる。
昨年、三線工としての功績が国に認められ「現代の名工」を受賞した。その背景には、弟子であり「現代の名工」推薦者として尽力した松田茂さんの思いがあった。
「沖縄の伝統、組踊、古典音楽、舞踊、民謡は三線によって支えられている。しかし、琉球芸能や踊り、演奏者と比べると三線職人は社会的評価が高くない。『現代の名工』への推薦は、それに対するチャレンジでした」
松田さんは、沖縄の三線の歴史や、又吉さんの三線製造の可視化などについて調査・資料を作成し、およそ2年もの時間をかけ厚生労働省に申請した。都道府県知事や全国的な事業主団体ではなく、一般推薦者の推薦による受賞は異例だという。
「先生の実績があってこそですが、三線職人が沖縄の芸能を支えていると国が認めてくれた。三線職人たちは一つの希望と誇りを感じたと思います」
汗と涙の結晶
伝統を守りながら、新たな技術や道具を取り入れ、より良い音を追求し続ける又吉さん。「現代の名工」受賞について「55年間続けてきたことが国に認められた。汗と涙の結晶です」と目を細める。
現在は「4代目」の育成を目標に掲げ、週末には子どもたちを対象とした「とんとんみー三線クラブ」や「三線製作後継者育成塾」を開講。又吉さんの周りには、常に三線の音色が響いている。
(元澤一樹)
又吉三味線店
うるま市赤道4-2番地
TEL 090-9475-7634
(2023年10月5日付 週刊レキオ掲載)