表現の可能性を広げる
「紅型本来の魅力は、いろいろな表現ができるポテンシャルの高さです」―。 紅型研究所 染千花(宜野湾市嘉数)代表の染色家・知花幸修(ゆきなが)さんは、紅型の古典柄を現代風に再構成したり、ストリートやアニメ・漫画のカルチャーの要素を取り入れた作品を創作したりと、紅型の可能性を広げる数々のユニークな作品を作り出している。
「最初にオリジナルのデザインを作った時に、紅型って意外といろいろな表現ができるんだな、と思った」
子どもの頃から絵を描くのが好きで、漫画やアニメが好きだった。進学した県立芸術大学では、型染めを学ぶ。大学時代はバンド活動に力を注ぎ、国内外でライブを開催。その中で、ストリートカルチャーを吸収したことが、後に生み出す独自の紅型作品のバックグラウンドとなった。
大学卒業後、紅型作家の母が立ち上げた染千花で働き始め、紅型教室の講師を務めつつ、技術を磨いた。2015年ごろからオリジナル作品の創作を開始。転機となったのは、古典紅型のモチーフを幾何学的文様を交えて現代的に再構成した作品だ。
「これを作ったことで、自分にもこんなデザインができるんだ、と」
その後、ストリートカルチャーや漫画・アニメのモチーフを取り入れた現代アート的な紅型作品を手掛けるようになる。アメリカと沖縄をテーマに、戦後の沖縄を象徴する迷彩柄のヤンバルクイナを描いたり、沖縄のハジチをアメリカのタトゥー文化のデザイン風に描いたり…。また、紅型はアニメ・漫画とも親和性が高いと考え、手塚プロダクション監修の下、手塚治虫のキャラクターを紅型に仕立てた作品も制作した。
緻密な技法
技法の面では、複数の型紙を用いる手法を追求した。紅型は、普通、1枚の型紙で染色するが、複数の型紙を用いて絵柄を何層にも重ね合わせることで、より奥行きのあるダイナミックな絵柄が表現できるという。
「紅型という技法だけにとらわれず、型染めというくくりで制作しているので、自由度の高い作品になっているのかな、と思います」
図案の制作にはパソコンを活用して絵柄を組み立て、時には0・1度の単位で線の角度を調整していく。彩色についても、さまざまなパターンを画面上でシミュレートし、最適な組み合わせを検討する。一つの作品を生み出すのに、数年かかることもあるという緻密な作業だ。
さらに広がる作品世界
「今は伝えたいことだけを表現するようになり、技法はシンプルになってきました」
テーマも、より普遍的なものへと広げているという。植物のシリーズもその一つだ。母の作風に影響を受けつつ、自身でスケッチを重ねて図柄を生み出す。
ヒスイカズラをデザインした作品は、今年、JTA全路線のクラスJ座席に設置するヘッドレストカバーに採用された。そのほか、咲元酒造とぎのわんマリン協会がコラボした泡盛「青ひとしずくOcean」では、波とサンゴをモチーフにラベルデザインを担当。スポーツシューズブランド・オニツカタイガーとのコラボでは、スニーカーを紅型で染色するなど、その仕事は広がりを見せている。
「紅型でできることはたくさんあると思います。アイデアはよく思いつくので、それらを形にしていくのが楽しい。頑張ってアウトプットしていきたい」
作家活動の傍ら、代表を務める染千花では、体験教室や、本格的な技法が学べる紅型教室の講師としても活動する。紅型の制作に興味のある人は、足を運んでみてはどうだろうか。
(日平勝也)
(2023年10月19日付 週刊レキオ掲載)