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豊富なアイデアを紅型に 紅型研究所 染千花 染色家 知花幸修さん


豊富なアイデアを紅型に 紅型研究所 染千花 染色家 知花幸修さん 制作に3年をかけた3連1組の紅型タペストリー「ヒスイカズラ Don’t forget me」の前に立つ知花幸修さん。花の色が映える彩色のバランスはもちろん、モチーフに沿って自然に視線が楕円状に大きく流れるよう構成も工夫されている=宜野湾市嘉数の紅型研究所 染千花 写真・村山望
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

表現の可能性を広げる

「紅型本来の魅力は、いろいろな表現ができるポテンシャルの高さです」―。 紅型研究所 染千花(宜野湾市嘉数)代表の染色家・知花幸修(ゆきなが)さんは、紅型の古典柄を現代風に再構成したり、ストリートやアニメ・漫画のカルチャーの要素を取り入れた作品を創作したりと、紅型の可能性を広げる数々のユニークな作品を作り出している。

「最初にオリジナルのデザインを作った時に、紅型って意外といろいろな表現ができるんだな、と思った」

子どもの頃から絵を描くのが好きで、漫画やアニメが好きだった。進学した県立芸術大学では、型染めを学ぶ。大学時代はバンド活動に力を注ぎ、国内外でライブを開催。その中で、ストリートカルチャーを吸収したことが、後に生み出す独自の紅型作品のバックグラウンドとなった。

日本の80~90年代のアニメ・漫画をモチーフにした作品「HOKA-Ribbon-」。紅型の技法を用いてキャンバスに彩色した意欲作。アメリカン・コミックの人物を油彩で描いたロイ・リキテンステインの絵画「ヘア・リボンの少女」を意識している

大学卒業後、紅型作家の母が立ち上げた染千花で働き始め、紅型教室の講師を務めつつ、技術を磨いた。2015年ごろからオリジナル作品の創作を開始。転機となったのは、古典紅型のモチーフを幾何学的文様を交えて現代的に再構成した作品だ。

「これを作ったことで、自分にもこんなデザインができるんだ、と」

その後、ストリートカルチャーや漫画・アニメのモチーフを取り入れた現代アート的な紅型作品を手掛けるようになる。アメリカと沖縄をテーマに、戦後の沖縄を象徴する迷彩柄のヤンバルクイナを描いたり、沖縄のハジチをアメリカのタトゥー文化のデザイン風に描いたり…。また、紅型はアニメ・漫画とも親和性が高いと考え、手塚プロダクション監修の下、手塚治虫のキャラクターを紅型に仕立てた作品も制作した。

戦後の沖縄とアメリカの関係を象徴する迷彩柄のヤンバルクイナを描いたタペストリーの一部。
戦後の沖縄とアメリカの関係を象徴する迷彩柄のヤンバルクイナを描いたタペストリーの一部。

緻密な技法

技法の面では、複数の型紙を用いる手法を追求した。紅型は、普通、1枚の型紙で染色するが、複数の型紙を用いて絵柄を何層にも重ね合わせることで、より奥行きのあるダイナミックな絵柄が表現できるという。

「紅型という技法だけにとらわれず、型染めというくくりで制作しているので、自由度の高い作品になっているのかな、と思います」

複数枚の型紙を使って何層にも重なった複雑な絵柄を表現
複数枚の型紙を使って何層にも重なった複雑な絵柄を表現

図案の制作にはパソコンを活用して絵柄を組み立て、時には0・1度の単位で線の角度を調整していく。彩色についても、さまざまなパターンを画面上でシミュレートし、最適な組み合わせを検討する。一つの作品を生み出すのに、数年かかることもあるという緻密な作業だ。

さらに広がる作品世界

「今は伝えたいことだけを表現するようになり、技法はシンプルになってきました」

テーマも、より普遍的なものへと広げているという。植物のシリーズもその一つだ。母の作風に影響を受けつつ、自身でスケッチを重ねて図柄を生み出す。

複数枚の型紙を使って何層にも重なった複雑な絵柄を表現
複数枚の型紙を使って何層にも重なった複雑な絵柄を表現

ヒスイカズラをデザインした作品は、今年、JTA全路線のクラスJ座席に設置するヘッドレストカバーに採用された。そのほか、咲元酒造とぎのわんマリン協会がコラボした泡盛「青ひとしずくOcean」では、波とサンゴをモチーフにラベルデザインを担当。スポーツシューズブランド・オニツカタイガーとのコラボでは、スニーカーを紅型で染色するなど、その仕事は広がりを見せている。

「紅型でできることはたくさんあると思います。アイデアはよく思いつくので、それらを形にしていくのが楽しい。頑張ってアウトプットしていきたい」

スポーツシューズブランド・オニツカタイガーとのコラボ。スニーカー100足を限定で手染めした
スポーツシューズブランド・オニツカタイガーとのコラボ。スニーカー100足を限定で手染めした

作家活動の傍ら、代表を務める染千花では、体験教室や、本格的な技法が学べる紅型教室の講師としても活動する。紅型の制作に興味のある人は、足を運んでみてはどうだろうか。

(日平勝也)

問い合わせ

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(詳しい住所はお問い合わせください)

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(2023年10月19日付 週刊レキオ掲載)