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商才生かして金融業で成功 金融界と投資家のユダヤ系アメリカ人 鈴木 多美子


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 1948年イスラエル建国以前は自国を持たず、長きにわたって迫害され続けたユダヤ人だったが、逆境の中、商才と経験を生かして金融業で成功を収めた。
 ドイツ生まれのユダヤ人マーカス・ゴールドマン氏は、渡米し馬に荷台を引かせて行商し、店を構えるまでになる。狭い地下室でブローカー業を始めて成功し、後に娘婿と共に「ゴールドマン・サックス」を設立。軌道に乗せてウォール街で存在感のある大手投資銀行に成長させた。
 ユダヤ人のヤコブ・シフ氏は1865年、18歳の時にフランクフルトからニューヨークに渡った時はほとんど無一文だったが、ブローカーとして成功した。ソロモン・ロブ氏の娘婿になりクーン・ローブ社を率い、鉄道事業、電信会社、シティーバンクなど大手企業の取締役を務めた。JPモルガンに次いでアメリカで2番目に権威ある銀行に成長させた。
 1904年の日露戦争勃発で資金難に苦しむ日本は、日本国債を売りに高橋是清氏をアメリカへ派遣するが、小国の日本が勝つ事は万に一つもないと相手にする銀行はなかった。イギリスでも誰もが投資に尻込みした。あるパーティーで高橋氏の隣に座った紳士から日本兵の士気は高いかなど質問され高橋氏は一つ一つ丁寧に答えた。翌朝その紳士が高橋氏を訪ね、日本の国債を引き受ける事に承諾した。その紳士がヤコブ・シフ氏だった。
 シフ氏は全世界のユダヤ人に日本の戦時国債を買うよう呼びかけ、日本は窮状を救われた。明治天皇に会見し勲章を受けたシフ氏は、日本国債で多大な利益を得た。後に「反ユダヤ主義的暴動ポグラムを実行する帝政ロシアを打ち負かせるのは日本だ」と思ったとシフ氏は述懐している。1977年、クーン・ローブ社は投資銀行のリーマン・ブラザーズと合併した。そのリーマン・ブラザーズは大手投資銀行で、1850年、ドイツからのユダヤ移民3兄弟が創立した。ハイリスクハイリターンのサブプライムローンを推進し、米国住宅バブルの波に乗って巨大証券投資銀行に成長した。だがバブルの崩壊で経営が悪化、2008年の史上最大の倒産劇は記憶に新しい。
 ハンガリー系ユダヤ人で世界3大投資家の一人ジョージ・ソロス氏は、アメリカに渡りソロスファンドを立ち上げた。1992年、西ヨーロッパ金融危機のあおりを受けたイギリス通貨ポンド危機の際、ポンドを売り一晩で9億5800万ドルの利益を上げた。「英国の銀行をつぶした男」の称号が付けられた。2013年には円相場で10億ドルの利益を得た。ソロス氏は天才的投機力で次々と多大な財を生むが、金もうけだけの人ではなく「オープン・ソサエティー財団」を設立し今は慈善事業に多大な力を尽くしている。
 「先物の父」と言われ国際金融先物市場を開設したレオ・メラメド氏は、8歳の時にナチスに追われリトアニア日本領事館員の杉原千畝氏の発行したビザで日本に逃げ延びた。その後、シカゴで成長し弁護士になるが、専業の先物トレーダーに転身し、シカゴ・マーカンタイル取引所の理事になった。出版した本には「日本の人々は、私の両親と私の命の恩人」だと記されている。(バージニア通信員)