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記者が語るバスケW杯 熱戦の軌跡、沖縄アリーナの可能性 記者座談会


記者が語るバスケW杯 熱戦の軌跡、沖縄アリーナの可能性 記者座談会 日本―カボベルデ 試合終了後、和やかな雰囲気で記念撮影する日本チーム=2日、沖縄市の沖縄アリーナ(小川昌宏撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 FIBAバスケットボールワールドカップ(W杯)2023が8月25日に開幕し、国内では沖縄アリーナを舞台に日本代表が熱戦を繰り広げた。世界の強豪国に持ち味の堅守と3点弾で立ち向かい、目標としていたパリ五輪の出場権を獲得した。日本の強さの秘密と今後の強化ポイント、選手を後押しした声援の力強さなど、大会を通じて見えてきたことを記者が話し合った。(バスケW杯取材班・仲村良太、池田哲平、梅田正覚、古川峻、小川昌宏、平安太一)

日本代表の成果と課題 名将の戦術 世界に通用

 平安 世界の強敵を相手に日本が白星を重ねた。何が日本の強みだったか。また、パリに向けて強化が必要なことはあるか。

 古川 日本の強みは粘り強い守備と攻守切り替えの速さ、スリーポイントだった。沖縄では名将の安里幸男さんが実践してきた。沖縄の戦い方が世界で通じることが証明された。

 梅田 世界の強豪が取り組むスリーポイント重視の戦術に日本もうまく乗れたことが勝因の一つだ。単純なインサイド勝負では世界の強豪に勝てない。ただ、そうはいってもやはり課題はインサイドだ。渡辺雄太とジョシュ・ホーキンソンの代わりがいない。

 仲村 さらに上位を目指すにはインサイドの強化は必要だ。インサイドが強い相手だとハーフコートの守備が後手に回り、ボールを回されて簡単に3ポイントを打たれて、リバウンドも奪われていた。

 池田 確かに、ゴール下でリバウンドを取られた印象がある。それでも守備で前からプレスを掛けてミスを誘うなど、瞬時に戦略を切り替えていた。長く練習をしてきた成果だろう。経験豊かな選手と若手もうまく融合した。

日本―カボベルデ パリ五倫進出を決め、河村勇輝(右)と抱き合って喜ぶ日本の渡辺雄太(小川昌宏撮影)

 古川 渡辺は日本代表の精神的支柱だ。代表引退宣言はチームを引き締めた。カボベルデ戦で勝利した後、インタビューで言葉を詰まらせ涙する姿に思いの強さを感じた。

会場、地元の盛り上がり 県内開催にワクワク感

 平安 日本代表の活躍もあって、会場を中心に県内各地で盛り上がりを見せた。大会の成果と課題は何か。

 池田 沖縄アリーナの構造はすり鉢状になっていて、日本戦の声援は地面から湧き上がってくる地鳴りのようで、とにかくすごかった。県などでつくる開催地支援協議会が多くのイベントを開き、大会期間中に最高潮となった印象だ。ボランティアを含め多くの人たちに感謝したい。

 仲村 身近にも会場などに足を運んだ人が多く、関連イベントも多彩で地元で大会が行われているというワクワク感があった。日本代表選手による子どもたちのクリニックやファンミーティングなどがあればもっと良かった。

 古川 沖縄市と北谷町のパブリックビューイング会場を見て回った。日本戦の時はいずれも大勢が集まり盛り上がった。一方で、会場によって集客にばらつきがあるようにも感じた。

 小川 大会準備が遅かった印象もある。機運を高めるシティードレッシングも大会1カ月前まであまり進んでいなかった。出場選手が確定しない事情も分かるが、日本戦以外では空席もあった。スロベニア代表で、NBAでも活躍するルカ・ドンチッチを多くの人が見たかったはずだ。

 梅田 沖縄アリーナ周辺の渋滞が気がかりだったが、警察官が常駐して交通整理などをしたことで、そこまでひどくなかった。今後の大型イベントの際にも教訓を生かしたい。

第4Q、日本がベネズエラを逆転し、喜びに沸く観客=8月31日夜、沖縄市の沖縄アリーナ(小川昌宏撮影)

W杯が与える影響 スポーツアイランド沖縄の地位を確固に

 平安 W杯の成功は今後の沖縄にどのような影響を与えるか。

 仲村 世界的なスポーツの大会を沖縄で開催できることを示せた。沖縄はアジアだけではなく、オーストラリアにも近い地理的優位性がある。総合格闘技やボクシングの世界戦など単発のビッグイベントも開ける。ホテルや観光地もあり、W杯のような中長期的な大会にも対応できることをアピールできた。

 池田 また大きな世界大会を開催する機会があれば、今大会の成功が大きな財産となるだろう。さまざまな大会を誘致してスポーツコンベンションを盛り上げてほしい。

 梅田 県外から初めて沖縄アリーナに来た人は、観戦のしやすさと清潔さに驚いていた。W杯を成功させた沖縄アリーナは今後、ニューヨークのマディソンスクエアガーデンのようなスポーツと音楽の殿堂になる可能性もある。

 古川 本格的な世界大会を県民で盛り上げた。数カ月前、何人かの関係者から「失敗すれば今後の大会誘致やバスケ人気に影響しかねない」と心配する声を聞いた。今回の成功はスポーツアイランド沖縄の地位を確かにしただろう。

 小川 沖縄アリーナの大声援がパリ五輪出場の結果を生んだことは間違いない。大きな歴史が刻まれた。今後も日本代表の試合などビッグマッチを開催してほしい。県民が「日本のバスケットの中心にいる」と誇りに思い、バスケがさらに深く根付くはずだ。