「もしこれが沖縄開催ではなくて、違うところでやってたら違う結果になってた可能性もあった」
大逆転でパリ五輪の出場権獲得に大きく近づいた8月31日のバスケットボールワールドカップ(W杯)のベネズエラ戦。最終盤でついた最大15点差をひっくり返すビッグプレーを連発した比江島慎は、こう語った。
7374人の熱気に包まれた満員の沖縄アリーナの声援が選手を後押しし、大逆転を呼んだ。
■大逆転劇の背景
琉球ゴールデンキングスのホームコートの沖縄アリーナは、バスケットボールを中心としたスポーツを「魅せる」ことを重視している。すり鉢状に配置された観客席は、照明を暗くする一方、コートは明るく照らして観客が試合に没入できるように演出される。
米プロバスケリーグのNBAでプレーする渡辺雄太は「『ここのお客さんの雰囲気は本当にアメリカと一緒だね』と(同じく米国でプレーする富永)啓生とも話していた。本当に最高の雰囲気の中でやらせてもらった」と話した。
沖縄アリーナは県民に人気の高いキングスの活躍と沖縄のバスケ熱の高さから2021年に完成した。W杯誘致はアリーナの完成が不可欠だった。
もともと熱気あふれるキングスの試合もアリーナの建設によりさらに熱狂的になった。日本戦を観戦した桶谷大ヘッドコーチも「キングスも、負けそうな試合を観客の声援で勝たせてもらうことがある」と話す。
「沖縄には県外よりもバスケコートが身近にあり、気軽にバスケを始める人が多い。実際にプレーしているからこそ、沖縄のファンは目が肥えている」
毎週土日、祝日に予約した体育館で、誰でもバスケができるイベント「フロムストリート」を主催する花城清孝代表は、沖縄のバスケ熱の背景について解説する。日本が敗れたドイツとオーストラリアについても「両チームとも観客からの大声援で、勝っている気はしなかったのではないか」と話す。
■アリーナの外も
熱狂はアリーナの外でも見られた。パブリックビューイングが設置された県内4カ所のファンゾーンには期間中の10日間で、総計3万1670人が来場した。日本戦のみに限れば1試合平均6403人と、アリーナの来場者に引けを取らない盛り上がりを見せた。
日本代表の活躍に伴い、沖縄アリーナの内外で大きなうねりを見せたW杯。日本バスケ史に刻まれる舞台を育んだのは、バスケを愛する沖縄の人々だった。
(梅田正覚)
強豪国から3勝を挙げ、沖縄アリーナでの激戦は語り継がれることになる。日本代表が躍動した大会を振り返る。