琉球新報児童文学賞受賞の連絡を受けた瞬間を「信じられなかった」と振り返る玉山広子さん(63)=沖縄市。「毎回、応募作には自信があるが、今回だけはなかった。両親がスーサー(イソヒヨドリ)の姿を借りて娘を見守るという突拍子もない話。違和感なく読んでくれるだろうかと心配だった」。しかし、その突拍子もない話が選考委員の高い評価を受け、短編児童小説部門の正賞となった。
「スーサーは沖縄では身近な鳥。家に入ってくるとご先祖さまからお知らせがあると言われている」
実際、玉山さんの家のベランダにスーサーが連日顔を出していた。「話を聞いた息子の知人のユタが、『先祖さまから何かお知らせがあるはずよ』と言っていたので、先祖供養をした。それ以来、ぴたりと現れなくなった。ご先祖さまがスーサーの姿を借りることもあるはず、とピンとくるものがあって、ストーリーが浮かんだ」
母がモデル。祖父は27、8歳の若さでブーゲンビル島で戦死した。遺骨は見つかっていない。「父親を亡くした母は、家族離ればなれに暮らすなど相当苦労したらしい。その戦争に抗議したかった。書いて母の無念を晴らそうと思った。登場人物は、あえて母と祖父、祖母の本名を使った」
2007年、「天竺へ」で、第19回琉球新報児童文学賞創作昔ばなし部門の正賞も受賞している。「これからも書き続けていきたい」と笑顔で語った。
(宜保靖)
選考委員コメント テーマが胸にしみる
第36回琉球新報児童文学賞の短編児童小説部門は玉山広子(本名・比嘉享子)さんの「スーサーに乗って」に決まった。選考委のコメントは以下の通り。
「戦争で亡くなった両親の魂が、スーサーに乗って子どもを見守るお話。設定に戦争を挟むと『子ども』の年齢が高齢になるため違和感が生じたが、語りの視点を孫の淳にしたことで最後までテンポが崩れず、面白く読めた」(齋木喜美子関西学院大教授)。
「軽快な文章で、子どもが楽しく読める作品だと思う。戦争孤児であるおばあちゃんに両親の魂が会いに来る話で、直接話せなくてもいつも見守られており、ひとりぼっちではないのだというテーマが胸に沁(し)みる」(新垣勤子児童文学作家)。
「県外からの移住者である私にとって、スーサーは最初に沖縄を感じたものだった。本作品はスーサーが魅力的に描かれている。戦後80年が間近となったが、戦没者たちはスーサーとなり、生活を見守ってくれている。そう思わせてくれる作品だった」(小嶋洋輔名桜大教授)。