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戦争への抗議伝える 玉山さん 苦労した母モデルに 新報児童文学賞


戦争への抗議伝える 玉山さん 苦労した母モデルに 新報児童文学賞 「スーサ―に乗って」で琉球新報児童文学賞短編児童小説部門の正賞を受賞した玉山広子さん=10日、沖縄市の琉球新報中部支社(大城直也撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 宜保 靖

 琉球新報児童文学賞受賞の連絡を受けた瞬間を「信じられなかった」と振り返る玉山広子さん(63)=沖縄市。「毎回、応募作には自信があるが、今回だけはなかった。両親がスーサー(イソヒヨドリ)の姿を借りて娘を見守るという突拍子もない話。違和感なく読んでくれるだろうかと心配だった」。しかし、その突拍子もない話が選考委員の高い評価を受け、短編児童小説部門の正賞となった。

 「スーサーは沖縄では身近な鳥。家に入ってくるとご先祖さまからお知らせがあると言われている」

 実際、玉山さんの家のベランダにスーサーが連日顔を出していた。「話を聞いた息子の知人のユタが、『先祖さまから何かお知らせがあるはずよ』と言っていたので、先祖供養をした。それ以来、ぴたりと現れなくなった。ご先祖さまがスーサーの姿を借りることもあるはず、とピンとくるものがあって、ストーリーが浮かんだ」

 母がモデル。祖父は27、8歳の若さでブーゲンビル島で戦死した。遺骨は見つかっていない。「父親を亡くした母は、家族離ればなれに暮らすなど相当苦労したらしい。その戦争に抗議したかった。書いて母の無念を晴らそうと思った。登場人物は、あえて母と祖父、祖母の本名を使った」

 2007年、「天竺へ」で、第19回琉球新報児童文学賞創作昔ばなし部門の正賞も受賞している。「これからも書き続けていきたい」と笑顔で語った。

 (宜保靖)


選考委員コメント テーマが胸にしみる

 第36回琉球新報児童文学賞の短編児童小説部門は玉山広子(本名・比嘉享子)さんの「スーサーに乗って」に決まった。選考委のコメントは以下の通り。

 「戦争で亡くなった両親の魂が、スーサーに乗って子どもを見守るお話。設定に戦争を挟むと『子ども』の年齢が高齢になるため違和感が生じたが、語りの視点を孫の淳にしたことで最後までテンポが崩れず、面白く読めた」(齋木喜美子関西学院大教授)。

 「軽快な文章で、子どもが楽しく読める作品だと思う。戦争孤児であるおばあちゃんに両親の魂が会いに来る話で、直接話せなくてもいつも見守られており、ひとりぼっちではないのだというテーマが胸に沁(し)みる」(新垣勤子児童文学作家)。

 「県外からの移住者である私にとって、スーサーは最初に沖縄を感じたものだった。本作品はスーサーが魅力的に描かれている。戦後80年が間近となったが、戦没者たちはスーサーとなり、生活を見守ってくれている。そう思わせてくれる作品だった」(小嶋洋輔名桜大教授)。