障がいある子 外出を楽に 乳幼児向けの椅子「IKOU」 福祉機器の枠超えて注目


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 体に障害のある子と一緒の外出を楽にしたい。そんな思いから生まれた乳幼児向けの椅子「IKOU(イコウ)ポータブルチェア」が、福祉機器の枠を超え、子連れの外出を応援する製品として注目を集める。開発者は脳性まひの長男を育てる京都市の松本友理さんだ。

 チェアの開発を機に起業し、障害の有無にかかわらず使える「インクルーシブデザイン」を掲げた乳幼児向け製品のブランドを立ち上げた。「物作りを通じて、全ての子とその家族が共にさまざまな体験を楽しめるような社会環境を整えたい」
 以前はトヨタ自動車で商品企画などを担当していた松本さん。2016年に長男を出産し、脳性まひによる運動機能障害があると診断された。休職して育児に専念する中で、世の中の物やサービスの多くが「健康な大人」を前提に作られていると実感したという。
 特に困ったのが椅子だった。脳性まひで肢体が不自由な子の多くは体幹が弱く、姿勢を支える機能のない椅子には座れない。松本さんの長男も自宅では特注の福祉機器の椅子を、移動時は専用のバギー(車椅子)を使っているが「バギーを持ち込めない施設もあり、出かけた先で座る場所を確保するのが大変だった。下調べの結果、行き先を変えたこともあります」。
 子どもを抱っこした状態でも持ち運べ、安全に座れる椅子があれば、もっといろいろな場所に子どもを連れて行けるのに―。かつて商品企画に携わった経験も生かし、大人用の椅子に取り付けて使えるポータブルチェアを作ろう、と決意した。
 約3年がかりで試作を重ね、体幹が不安定な子の体がずり落ちないよう、座面を3段階で後ろに傾けられる「ティルト機能」などを備えた折りたたみ式の椅子を開発。運びやすさを考え、重さは3・2キロに抑えた。
 22年4月に販売がスタート。障害のある子はもちろん、まだ上手にお座りできない乳幼児のいる家庭で広く使える製品として注目され、グッドデザイン賞も受賞した。
 大人用の椅子があれば設置できるため、劇場やスタジアムなどで子連れのお出かけを応援するアイテムとして導入されるケースも。バスケットボール男子Bリーグのアルバルク東京は、ホームゲームでチェアの貸し出しを実施している。利用者からは「子どもを抱っこする必要がなく、応援に集中できた」などの声が届いているという。
 「IKOUのチェアを使ったことをきっかけに、障害のある子が日頃どんな困り事を抱えているのか、興味を持ってくれる人が増えたらうれしい」と松本さん。今後も障害のある子やその家族らの声を取り入れつつ、より多くの人の暮らしを便利にする製品の開発を進めたいとしている。

IKOUポータブルチェアと松本友理さん=京都市中京区

スタジアムで貸し出されているIKOUポータブルチェア