再エネ活用に冷水 秋本議員逮捕 風力公募 競争阻害か 持論 衝撃 利権


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 洋上風力発電事業を巡り、業者側からの賄賂の見返りに国会質問したとして、受託収賄容疑で衆院議員の秋本真利容疑者(48)=自民党離党=が逮捕された。原発推進を掲げる同党にあって、再生可能エネルギーの活用を強く訴えた異端児。逮捕前には「事業の公募制度には不備があった」と訴えていた。脱炭素社会実現の切り札と位置付け、事業を進める政府は、冷や水を浴びせられた形となった。 (1面に関連)
 「早期の運転開始の時期を評価しないのはどうなんでしょう」「(早期開始に)汗をかいた事業者に報いなくていいんですか。再エネの量を増やすために信念として言っています」
 東京地検特捜部が内偵捜査を進めていたことし5月。東京・永田町の議員会館の事務所で共同通信の取材に応じた秋本容疑者は、悠然とした様子で事業の公募制度について持論を展開した。
 自民党が原発活用にかじを切った点には「岸田文雄首相はエネルギー政策に特に知識があるわけではなく、原発推進派の議員にフリーハンドでやらせているためだ」とまで断じてみせた。
 2022年2月の衆院予算委員会分科会でも、事業の第1弾となった公募で、運転開始時期を重視しなかった評価基準には不備があり、変更すべきだと見直しを求めた。
 贈賄容疑で在宅のまま捜査されている塚脇正幸氏が社長を務めていた日本風力開発は、事業参入に向け、青森県・陸奥湾や公募第1弾の対象となった秋田県沖などで環境影響評価(アセスメント)の手続きなどを実施していた。手続きを進めれば、早期の運転開始につながり、参入にも有利になると踏んでいたとみられる。
 しかし、秋田県沖など3海域が対象となった事業公募では21年12月、価格の安さを評価された三菱商事連合が全て落札。日本風力開発はうち2海域で公募に参加していたとみられるが、及ばなかった。「塚脇さんをはじめ、本当に皆びっくりした」。同社関係者は総取りされたことに社内で衝撃が走ったと証言する。
 評価基準が価格重視に過ぎるのではないか―。業界内で上がった疑問の声を背景に、同社幹部が代表を務める業界団体も見直しを国に要請。その後、運転の早期開始を重視した新基準が導入された第2弾の公募が行われ、ことし6月に締め切られた。公募に参加したある業者は取材に「秋本容疑者が国会質問した当時から、誰かが入れ知恵していると考えていた」と振り返る。
 発電所視察の際には電力会社側による送迎を断り、食事が出された場合でも「必ず値段を聞いて、その金額を置いてくる」と自著で清廉さをアピールしていた秋本容疑者。あるエネルギー業界関係者は今回の逮捕に「結局、再エネ利権は魅力だったのだろう」と語る。
 エネルギー政策に詳しい九州大の堀井伸浩准教授は「公募による競争が阻害された疑いが出てきた。政府は再エネを巡る汚職でどれだけ余計なコストがかかっているかを検証し、持続可能な脱炭素政策を立案していくべきだ」と指摘する。
 政府の看板事業の一つである洋上風力発電を巡る今回の汚職事件。松野博一官房長官は7日の記者会見で「再エネには引き続き関係省庁で透明性を持って取り組む」と強調したが、政府関係者は「イメージ低下は避けられない」と顔を曇らせた。