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ハイキング文化の発信地に 1025キロ「みちのく潮風トレイル」 みんなで育てる「復興の道」


ハイキング文化の発信地に 1025キロ「みちのく潮風トレイル」 みんなで育てる「復興の道」 岩手県岩泉町を通る「みちのく潮風トレイル」を歩くハイカー
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 自然を楽しむために整備された長距離歩道「ロングトレイル」が注目されている。中でも、東北4県(青森、岩手、宮城、福島)の太平洋沿岸をつなぐ全長1025キロの「みちのく潮風トレイル(MCT)」は日本最長級のトレイルとして多くのハイカーが訪れ、新たなハイキング文化の発信地として期待されている。

 「今、この道を歩いている人がうらやましい」。宮城県名取市にある同トレイルの拠点施設「名取トレイルセンター」では大分県日田市の会社員、浜口聡子さんが全線が描かれた地図を前に思い出をかみしめた。
 浜口さんは名取市に住んでいた2021年5月から、夫の哲さんと週末ごとにコースを区切って歩き、1年半かけて全線を踏破。当初は想定していなかったが、情報を求めてセンターに通ううちに人間関係も広がり「道だけでなく人ともつながっていくのが面白くなった」と歩き切った。その後もお気に入りの区間を歩いたり、センターの草むしりに参加したりと「みちのく潮風トレイルの大ファンです」と笑う。
 MCTは11年の東日本大震災後、復興支援の一環として環境省がルートを設定。山道だけでなく舗装路も合わせて4県の29市町村をつなぐ。「名取トレイルセンター」によると、19年の全線開通以来、今年7月までに110人以上が全線踏破。海外からの問い合わせも増えているという。
 「『被災地』という記号ではなく、リアルな世界が目の前に立ち上がってくるのが、歩く旅のすごさです」。MCTを管理運営する「みちのくトレイルクラブ」常務理事の相沢久美さんは「復興の道」としての役割も実感する。
 ハイカーは、地域の人と触れ合うことで被災地について主体的に考えるようになる。一方、地域の人にとっては、被災者同士で語りにくい体験を話す機会になることも。地域住民がハイカーを車に乗せたり、菓子でもてなしたりと、MCTを通して交流が生まれているという。「みんなでこの道を育てていきたい」
 環境省が計画した長距離自然歩道は各地にあるものの、多くは維持や運営面で課題を抱える。米国で4千キロ超のトレイルを歩いた経験などを基にMCTに関わってきた長距離ハイカーの長谷川晋さんは「MCTを歩き終わって『次の道を』というハイカーのためにも、長距離自然歩道を再生させたい」と意気込む。「長編小説でしか得られない読書体験があるように、長い距離を歩かないと分からないことがある。各地で盛り上がれば、ハイキング文化の底上げになるのは間違いない」

岩手県岩泉町を通る「みちのく潮風トレイル」を歩くハイカー