岸田文雄首相が内閣改造・自民党新役員の陣容を固めた。抜てき人事で支持率低迷の難局打開を狙うが、総裁再選を見据えれば派閥のバランスや意向も考慮せざるを得ない。裁量の余地が乏しい中、リスクを抱え込んだ。人選を誤れば政権に鬼門の「政治とカネ」問題を招き、早々に正念場を迎えかねない。 (1面に関連)
「国民と共に対処しなければならないことは山積している。日本はまさに正念場だ」。12日午前、党本部8階。首相は党役員会で、支持率低迷から抜け出せない自身の立場を重ね合わせるように訴えた。午後になると新役員へ一斉に電話し、政権運営へ協力を求めた。
2021年10月に宰相の座を射止めてから3度目の本格人事。昨年8月は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題が閣僚候補らの絞り込みの足かせとなっただけに、今回は周囲に「全部自分で決める」と意気込んだ。
象徴が小渕優子組織運動本部長の選対委員長起用だ。女性活躍推進に積極的な政権の姿勢をアピールする狙いなのは間違いない。ただ小渕氏は安倍政権下の14年に政治資金問題で経済産業相を辞任。説明責任を果たしていないとの指摘は今も党内外で絶えない。
21年の岸田政権発足当初は、金銭授受問題で閣僚を辞めたことのある甘利明氏が幹事長に就き、記者会見で厳しくただされた。小渕氏も「修羅場」(自民筋)に立たされる可能性は高い。
昨年8月の内閣改造後、不祥事で4閣僚の辞任ドミノが起きた記憶は新しい。ベテラン議員は「小渕氏の政治とカネ問題が蒸し返され、出だしからつまずかなければいいが」と懸念する。
小渕氏の選対委員長登用により、茂木敏充幹事長を含め、党四役のうち二つを第3派閥の茂木派が占めることになる。他派閥の反発は必至だ。
「好きな人事」(側近)で見せ場をつくりたい首相だが、重鎮や他派閥からの要望にからめ捕られた様子がうかがえる。
「うちの派閥から2人を初入閣させてほしい」。12日昼、最大派閥・安倍派の塩谷立座長が求めると、首相は「要望は聞きたいがいろんな派閥がある。みんなに泣いてもらっている」と諭した。
とはいえ所属議員100人を抱える安倍派は、総裁再選を考えれば敵には回せない。政権の安定も重視し、同派の松野博一官房長官や西村康稔経産相、萩生田光一政調会長らの続投を決定。ほぼ満額回答だった。 そもそも小渕氏を用いるのも、安倍派に強い影響力を持つ森喜朗元首相の意向に沿ったものだ。岩盤保守層に人気の高市早苗経済安全保障担当相は留任させ、非主流派とのパイプ役を期待する森山裕選対委員長も総務会長に横滑りさせて囲い込んでおきたい。
腐心した首相は11日に茂木氏ら幹部8人を個別に党本部総裁室に招き、約30分ずつ会談した。閣僚経験者は「首相は得意とする聞く力を発揮したのだろうが、ただの八方美人。少なくとも党役員は刷新感が乏しい」と皮肉る。
ある重鎮は説く。「首相にとって人事は権力の見せどころであり、失敗すれば一気に求心力を失う。もろ刃の剣なんだ」
自民党役員会に臨む小渕優子組織運動本部長(中央)ら=12日午前、東京・永田町の党本部
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鬼門の「政治とカネ」 人選誤れば正念場に 内閣改造・役員人事 意気込み 満額回答 もろ刃の剣
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琉球新報朝刊
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