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「美の世界」シリーズ10年 山内 昌也 「1×1」で高品質な芸術に


「美の世界」シリーズ10年 山内 昌也 「1×1」で高品質な芸術に 「美の世界Ⅵ」で舞と歌三線で「1×1」の公演を披露する(左から)西村綾織、山内昌也=8月27日、東京都の銕仙会能楽研修所(提供)
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 琉球古典音楽1人と琉球古典舞踊1人の「1×1」によるパフォーマンス。山内昌也・西村綾織(あやの)リサイタル琉球伝統芸能「美の世界Ⅵ」が8月27日、東京・南青山の「銕仙(てっせん)会(かい)能楽研修所」で4年ぶりに行った。暦の上では立秋だが、灼熱(しゃくねつ)の日差しが降り注ぐ中、多くの方が早々と来場し、満員となった。
 今回の演目は古典舞踊女踊「かせかけ」と「伊野波節」。独唱は今年琉球古典音楽の祖といわれる湛水親方(たんすいうぇーかた)(幸地賢忠)の生誕400年を祝し、湛水流「作田(つぃくてん)節」「ヂャンナ節」「暁(あかつぃち)節」「早作田(はいつぃくてん)節」で構成した。美の世界シリーズは、琉球古典音楽および琉球古典舞踊(女踊)によるプログラムとなっている。これまでを振り返ってみたい。
 2013年に芸大での授業で「学外研究」があり、私は学生たちを引率していた。そして助手として同行していた西村と初めて銕仙会能楽研修所を訪れた際、その空間に感動し、西村と共に「琉球芸能の質」を理念とした「1×1」を考案したのである。そして翌年銕仙会にて「美の世界Ⅰ」を行った。コンセプトは「琉球古典芸能のみにより構成し、女踊のみとする」「上演時間を60分程度とする」「会場は周辺環境をリサーチし、鑑賞後も余韻にふける立地である」とした。上演後のアンケートには「琉球芸能の高品質に感動しました」「独唱による音楽を聴き続けることで、体内が浄化された気分になりました」「場所と空間そして2人の姿がとても印象的で所作が美しかった」などと記述されていた。
 その後は会場を日本橋の和室空間に移し、より「少人数・小空間」で開催した。その影響は「同業者」にも与えたのか、他の演者もさまざまな「1×1」を行うようになっていた。そのためこの取り組みを次世代に伝えても良いのではと思い、2019年(一社)琉球伝統芸能デザイン研究室を設立、翌20年には取り組みが「グッドデザイン賞」を受賞した。また、昨年は内閣府主催による「琉球芸能鑑賞会」(「1×1」)を東京迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭」で上演した。迎賓館で琉球芸能が上演されたのは史上初であった。このように「1×1」は美の世界シリーズから始まり、構想から10年を迎える。少人数・小空間ならではの高品質な「うとぅいむち」(おもてなし)が文化・芸術として、持続可能な琉球伝統芸能へと発展できれば幸いである。
  (沖縄県立芸術大学教授)
「美の世界Ⅵ」で舞と歌三線で「1×1」の公演を披露する(左から)西村綾織、山内昌也=8月27日、東京都の銕仙会能楽研修所(提供)