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仮釈放 新たな苦しみに/三重朝日町・中3女子死亡事件10年/被害者の父「区切りなんてない」/遺族支援条例制定に奔走


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 三重県朝日町で中学3年の寺輪博美さん=当時(15)=が18歳だった少年に襲われ死亡した事件は8月25日、発生から10年となった。父悟さん(55)は「区切りなんてない」と吐露。元少年の仮釈放が新たな苦しみをもたらしていると告白する。一方、犯罪被害者や遺族を支援する条例が欠かせないと行政への働きかけに力を注いだ10年を「娘の死を無駄にしないと歩んできた」と振り返った。
 10年前の8月25日、15歳になったばかりの博美さんは花火大会から帰る途中、行方が分からなくなった。4日後、朝日町の空き地で遺体となって見つかった。太陽のように明るく、幼いころ「パパと結婚する」と言ってくれたまな娘。悟さんは、警察署で対面した娘の足の爪に塗られた母、姉とおそろいの赤いペディキュアが「博美だよ」と呼びかけているようだったと回顧する。
 約半年後の2014年3月、容疑者が逮捕された。県立高校に通う3年の男子生徒だった。「寺輪博美」の実名は報道されたが、少年の氏名は伏せられた。「命を失った娘は人権もプライバシーも奪われたのに、加害者は少年法に守られている」。納得できなかった。
 18、19歳を「特定少年」と位置付けた改正少年法が22年に施行され、同様の事件が今起きれば実名で報道される可能性が高い。「若気の至りで犯行に走ることもある」としつつも「人の道を外れたのであれば名前を出すべきではないか」と、改正には賛成の立場だ。犯罪の抑止にもつながるのではないかと指摘する。
 悲しみと向き合いながら、遺族を取り巻く環境を改善しようと行政への働きかけを続けた。19年、遺族への見舞金制度などを盛り込んだ三重県犯罪被害者等支援条例が全国に先駆けて施行された。各市町にも足を運び、条例制定を促した結果、県内の全29市町で、犯罪被害者や遺族を支援する条例、要綱が制定された。
 「自ら命を絶たない」「元少年の家に行かない」「酒を飲まない」。残された子どもたちを守るため、妻と立てた誓いは今も守り続けている。
 今年7月、元少年(28)が仮釈放された。「泥水をすすってでも罪を償っていく」という元少年の言葉が悟さんのもとに届いたが、今度は「再び同じ空気を吸っている」という新たな現実が胸を締め付ける。事件当時のままに娘の息遣いが残る家で、遺族は新たな苦しみと向き合っていく。

<用語> 三重県の中3女子死亡事件 2013年8月29日、三重県四日市市の中学3年寺輪博美さん=当時(15)=の遺体が同県朝日町の空き地で見つかる。当時18歳だった元少年(28)が逮捕され、同25日にわいせつ目的で背後から襲い、死なせたなどとする強制わいせつ致死と窃盗の罪で起訴された。津地裁で懲役5年以上9年以下の不定期刑を言い渡され、確定した。

寺輪博美さんの写真に手を合わせる父悟さん=11日、三重県四日市市