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中国、邦人の監視強化 処理水放出 関係者中心に


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 日本政府が2021年に東京電力福島第1原発処理水の海洋放出処分を正式決定して以降、中国でスパイ摘発を担う国家安全部門が、中国の政界や経済界に深く関わっていると見なした邦人に対する監視を強化していたことが17日、分かった。特に放出を巡る日中間の協議に関わる人物らの身辺調査を水面下で進めたという。拘束も検討した可能性がある。複数の関係筋が明らかにした。
 共産党による強固な統治を目指す習近平指導部は国内での外国人の活動を警戒しており、邦人監視もその一環だ。中国の在留邦人は10万人余り。全員が監視対象ではないとみられるが、外国人を人質にするかのような危うい姿勢を国際社会が懸念している。
 関係筋によると、日本政府が処理水放出処分を21年4月に決定して以降、日中当局の意見交換の場が複数回設けられた。中国は「放射性物質トリチウムを含む処理水は溶融した炉心に触れた水であり通常の原発運転の排水と同一視できない」と主張して放出反対の方針を早い段階で確認した。
 一方で中国の原発からの排水に含まれるトリチウムの量が福島原発処理水の放出予定量を超えていることを示す“不都合な”データが日本側で明らかになったことを問題視。国家安全部門は処理水の協議に関わっていると見なす在留邦人の通信記録や行動履歴を入念に調べ、中国と関わりが深いと判断した邦人に対して拘束も念頭に監視網を広げたという。
 中国では近年、邦人拘束が相次いでいる。今年3月にはアステラス製薬の中国法人幹部がスパイ容疑で拘束された。関係筋によると、幹部は中国滞在歴が長く医療業界を中心に幅広い人脈があり、当局の監視対象となっていた可能性がある。中国政府は7月には改正反スパイ法を施行し、取り締まりを強化している。政府関係者は「関係が悪化すれば人質外交のようなこともしかねない」と警戒感を示した。