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放出批判に「中国の味方か」 岸田政権、反対論けん制


放出批判に「中国の味方か」 岸田政権、反対論けん制 原発処理水海洋放出を巡る関係図
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 岸田政権が、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡り、反対論の沈静化に本腰を入れている。一部野党議員らの放出批判を「理不尽に反発する中国に味方するのか」(政権関係者)とけん制。中国への警戒感を強める世論を追い風にする。一方の野党側には、ナショナリズムを背景とした非難の矛先が自らに向くことへの懸念が漂う。
 処理水を議題とした8日の国会閉会中審査。日本維新の会の足立康史氏が衆院の連合審査会で「立憲民主党の議員には『汚染水』と表現する方がいる。偽情報でありフェイクだと思うが、いかがか」と尋ねた。西村康稔経済産業相は「全くその通りだ」と即答すると、放出を支持する与党議員からは失笑が漏れた。足立氏は「私たちは国会の中から偽情報を駆逐していく決意だ」と述べ、協力姿勢をアピールした。
 放出に猛反発する中国は、処理水を「核汚染水」と呼んで日本産水産物輸入を全面停止。その高圧的態度が「日本側の愛国意識を刺激した」(自民党中堅)と見る向きは多い。
 安全保障に携わる政府筋は「海洋放出という国策への賛否が愛国心を測るバロメーターになった感がある。このムードは政権にとって追い風に、反対する側にとって逆風になる」と指摘する。
 こうした世論動向を踏まえた対応は、水産事業者支援策にも表れた。政府は4日発表の追加支援策に、国内消費拡大への取り組みとして「国民運動の展開」を明記。中国の全面輸入停止に対抗するため、ふるさと納税などを活用して「食べて日本の水産業を守る」意識を国民各層で高める狙いがある。
 岸田文雄首相は13日の記者会見で「水産業は断固として守り抜く。1007億円の基金などを活用し、風評対策など万全の対策を取らなければならない」と訴えた。この日の内閣改造で、処理水を「汚染水」と言い間違えた野村哲郎前農相は退任。首相は新たな関係閣僚の下で「オールジャパン体制」(外務省筋)の支援策推進を目指す。
 一部野党は対応に苦慮している。立民の大串博志選対委員長は14日のBSフジ番組で、党議員による「汚染水」表現に触れ「ある人はもう使っていない。ある人は汚染水処理の問題だという文脈で使っている」と釈明した。立民は党内に放出への賛否両論を抱える。
 透けるのは、批判の仕方によっては、中国に肩入れして風評被害を加速させている印象を与えるとの危機感だ。
 共産党の小池晃書記局長は同番組で、関係者の理解を得ていないとして放出中止を求める一方、処理水を巡り「危険だとは言っていない」と念押しした。野党筋は「海洋放出は、環境問題というより日中問題。対応を間違えれば世間に『日本の敵』とみなされる」と身構える。