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動物の力で QOL向上 高齢者アニマルセラピー 自発的行動多くなる 交流希望する施設が増加


動物の力で QOL向上 高齢者アニマルセラピー 自発的行動多くなる 交流希望する施設が増加 山本真理子さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 超高齢化社会が進む中で、後半生を心身共にいかに健康で過ごすかは、大きな課題だ。高齢者福祉の現場で、動物の力を借りて心身の健康を保ち、生活の質(QOL)を向上させるといわれる「アニマルセラピー」に、注目が集まっている。
 「犬を連れて行くと、自然と手が伸びたり、会話が弾んだり、自発的な行動が多くなるお年寄りは多い」。帝京科学大講師の山本真理子さん(介在動物学)はこう話す。
 施設での生活は活動範囲が狭くなるため、どうしても人と関わろうとする意欲が低くなりがち。うつ状態に陥らないための工夫の一つとして、動物との交流を希望する施設は増加。レクリエーションで触れ合うだけでなく、犬や猫を飼う高齢者施設も増えてきている。
 山本さんによると、認知症を含め、アニマルセラピーがお年寄りの健康や疾患に有効とする調査結果は多いものの、医学的根拠はまだ十分に示されてはいない。「それでも需要が高まっているのは、明らかに病院や施設でお年寄りに笑顔が増え、感情が良い方向に動くのを肌で感じる人が増えているからだと思う」
 とはいえ、単に施設に動物を連れて行くだけでは不十分という。動物介在療法の研究者で「まとば動物病院」(宮城県村田町)の的場美芳子さんは「セラピー犬と、犬を調教するハンドラー、訪問を受けるお年寄りの3者の良好な関係が構築できないと、良いセラピーにならない」と話す。
 現場では、動物の行動に突然、高齢者が怒り出すなど、さまざまな出来事が起こりうる。それを上手にコントロールするのが、ハンドラーの役目だ。「個々の動物の性格や能力を見極めてトレーニングし、現場ではあらゆる場面で冷静に対処しなければなりません。優秀なセラピー犬とハンドラーの両方の育成が大きな課題です」
 NPO法人「ジャパンアニマルウェルネス協会」理事長で東京大大学院農学生命科学研究科・特任教授の日下部守昭さんは、茨城県龍ケ崎市の特別養護老人ホーム「竜成園」と協力し「アニマルセラピーボランティア入門講座」を開いた。ハンドラー希望者数人が、要介護3~5、90~97歳のお年寄り約10人と交流しながら、トレーナーから指導を受けた。
 犬たちの訪問に最初は戸惑っていたお年寄りたちは、次第に興味深い表情を見せ、やがて自分の目の前に来るのを笑顔で待ち受けるように。「ハンドラー希望者も、手応えを感じたようでした」と日下部さん。「将来、ますます需要は増えると思う。こうした育成活動を通じて一つ一つエビデンスを積み上げながら、アニマルセラピーを望む人たちに手が届く環境をつくっていきたい」
セラピー犬に、笑顔で両手を伸ばす入所者の女性(左)=茨城県龍ケ崎市の特別養護老人ホーム「竜成園」
山本真理子さん