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財産を社会のために生かす/遺贈寄付の方法と課題/望みかなえられる仕組みを


財産を社会のために生かす/遺贈寄付の方法と課題/望みかなえられる仕組みを 「人生を振り返っていただいて、納得できるお金の使い方を見つけてほしい」と話す斎藤弘道さん=東京港区
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 人はいつ死ぬか分からないので、財産を使い切って亡くなることは難しい。自分の財産の一部でも、社会のために生かしたい―。そんな願いを形にしたのが「遺贈寄付」。どのような方法や課題があるのかを探った。

 全国レガシーギフト協会編「遺贈寄付ハンドブック」によると、遺贈寄付とは(1)死亡した本人の遺言による民間非営利団体への寄付(2)故人の手紙や言葉を尊重した相続人による寄付(3)信託や死因贈与、生命保険などの契約による寄付―を指す。
 日本での相続額は年間37兆円から63兆円という試算もあり、莫大(ばくだい)な額。だが遺贈寄付の意思は持っていても、実際に遺言書を作っている人はごく少数という。同協会によると、寄付する側には「寄付先の団体を信用できるのか」「多額でないと寄付できないのではないか」「身近に相談できる人がいない」といった不安が壁となっている。
 遺贈寄付先を選ぶには、自身の関心事を手がかりに絞り込んでいく方法がある。「保健・医療・福祉」「子どもの健全育成」といった団体の活動分野を選ぶ意思があれば、さらに活動地域が「海外」「日本全国」「市町村」なのかを絞り込む。寄付金控除を受けられるかどうか、という点も判断基準になる。生前に少額の「お試し寄付」をしてみて、その団体の対応に誠実さを感じた、といった体験ができれば、より安心できるだろう。
 遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」がある。自筆遺言を自宅に保管した場合、亡くなった際に見つけられなかったり遺族が隠したりする例も。2020年に始まった法務局の保管制度では、死亡届を受けた市町村が法務局に連絡、遺言者があらかじめ指定した人に遺言書の存在を伝えることもできる。
 自筆の遺言には「パソコンなどではなく手書き」「日付や押印」といった要件があり、注意が必要だ。また、法的な効力はないが、エンディングノートや手紙で意思表示することも、相続人には大事な手がかりになる。
 星野哲著「遺贈寄付」(幻冬舎)は事例を掲載。「治療が難しい病気で夫を亡くしたので、再生医療や新薬開発の研究機関に」「幼い頃に父を亡くして奨学金に助けられたので教育関係に」など、寄付先選定と故人の人生が密接に関係していることが分かる。
 全国レガシーギフト協会理事の斎藤弘道さんは、信託銀行や自身で立ち上げた会社で長年、寄付者の相談に乗ってきた。「遺贈寄付は、いわば人生の集大成です。寄付の手続きが完了して『不安が消えて晴れやかな気持ちになれた』と話す方も多い。相談窓口を増やすなどして、寄付したい方の望みをかなえられる仕組みの整備に取り組みたい」

遺贈寄付について参考となる書籍

「人生を振り返っていただいて、納得できるお金の使い方を見つけてほしい」と話す斎藤弘道さん=東京港区